117 対処
王都を覆うような植物の要塞は、冒険者様方の足場にもなると思います。
街の上空の魔獣方討伐を任せ、わたし達はその他の魔獣方を討伐する手助けをするため、入口へ急ぎました。
その途中でも怪我人を発見しましたので、<治癒>をかけながら進みます。
王都の入口に着くと、また多くの怪我人がいらっしゃいました。もう何度目かわからない<治癒>をかけ、イザヤ様と共に外へ出ます。
「ファラが活動しているのに、まだこんなに……」
以前経験した、王都襲撃の比ではない数の魔獣方がいます。
ファラはわたしのステータスの99%譲渡を受け、数値は9900万。負けるはずはありませんが、それでも苦労しているようです。
魔獣方がどこで発生しているのかを突き止め、その根源を絶たなければずっと悩まされるのではないでしょうか。
わたしはひとまず、魔獣方の襲撃により破損してしまっていた王都の入口を<修繕>しました。
それにより、王都の結界のようなものが発動したのでしょうか。ある一定の距離までしか魔獣方が来られないようです。
今のうちに怪我人の方々を、と思っていると、突然左側が破損しました。
「なんで……」
疑問に思いつつ、瓦礫の下敷きとなる被害者が出ないように再び<修繕>をかけました。
そうすると、一度は元の状態に戻るものの、またすぐに破損してしまいます。
これは何かあると思い、<気配探知:対空気中>を発動しました。
「イザヤ様! 見つけました!!」
声をかけると、イザヤ様はすぐに移動してくださいます。
わたしと一緒に行ったのは、入口の大きな扉を支える柱。その中央辺りに、見たことのある二重の円と複数の三角が描かれた魔方陣を見上げます。
「あの高さ……届きませんね」
「ドニーさんは風属性があるから、気配を消したり風の魔法を使ったりして、あの場所に描いたんだろうね」
「どうにか、あの魔方陣を壊さないといけませんね」
何か使えるものはないかと考えたとき、思いつきました。時間を無駄にしないため<気配探知:対空気中>を止めます。
それから、後でまた<修繕>をかけますと頭を下げ、扉の一部を破壊しました。そしてナイフを使って細く尖らせ、魔方陣の中央辺りに飛ばすようにして二本投げます。
思い描いた通りの場所に棒が刺さりました。
そしてすかさず、左耳の上から六番目のアロイカフスに二度触り、啄木鳥型友獣を出します。
「ピー、キョー。あの棒を足場として、すぐ近くの壁を壊してください」
<! やるやる!>
<! まかせろまかせろ!>
わたしの指示を受けたピーとキョーが、お願いした通りに嘴で壁に穴を開けます。
その二体が壁から離れ、わたしの肩に止まったと同時に、壁の穴から火が出ました。
もう一度、<気配探知:体空気中>を発動します。
「やった! イザヤ様、成功しました!」
報告もそこそこに、わたしはすぐに<修繕>を使いました。
今度こそ本当に<修繕>され、王都に魔獣方が入れなくなります。
「漆黒の旋風様に続けーー!!」「「おおーー!!」」
わたしの行動を見ていたらしい他の冒険者様方が、一斉に王都の外へ向けて走り出しました。
わたしはその間にこの場にいた怪我人の方々に<治癒>をかけます。
王都にいる冒険者様方は、実力もあるでしょう。足りなければ、複数の方と連携して魔獣討伐をするはずです。
わたしはピーとキョーをアロイカフスに戻ました。
そしてイザヤ様の背中に乗せてもらい、王都を出ます。
次は、王都へ襲い来る魔獣方の発生源であるメタン湿地です。
イザヤ様に行き先を告げ、向かってもらうと、ファラだけでなく多くの冒険者様方が活動していました。
誰かが見つけたのか、「漆黒の旋風様が来た!!」と叫ばれます。
わたしも、有名になったものです。
ですが、名声に浸っている余裕はありません。
左手の薬指を触って一度ファラを戻し、ファラがいた位置から拳の風圧を飛ばします。
一掃しまして、また冒険者証が震えました。しかし、ぽつりぽつりとまたメタン湿地から魔獣方が出てきます。
「イザヤ様。メタン湿地は、どこから魔獣方が発生しているのでしょうか」
「メタン湿地には、中央にメタン沼っていう所があるんだ。そこが一番、沼気が濃い。たぶん、そこだと思うけど……」
「なるほど!」
イザヤ様と相談している最中も、魔獣方が湧いてきました。再びファラを出して対処してもらいつつ、わたしとイザヤ様も討伐しつつ、沼気をどうするか考えます。
「イザヤ様っ。沼気はなぜ発生しているのでしょうか」
「わからないっ。おれが冒険者を始めた時には、もう発生してたからっ」
「なるほどっ。ではっ、どうしましょう!」
「沼に何かあるんだとっ、思う!」
「沼に入れればっ、問題ないですね!?」
「たぶんっ」
沼、ということであれば、もしかしたら元々そこには湖があったのかもしれません。
しかし何かしらの原因があり、沼となった。汚染源をどうにかできれば、魔獣方が無限に湧く状態を改善できるかもしれません。
「っ、イザヤ様っ! 一度試してみたいことがっ、あります! メタン湿地に近づいてもっ、よろしいでしょうかっ」
「わかった! 援護するっ」
わたしとイザヤ様は二人が両手を広げるぐらいまでの距離しか離れられません。そのため、そのギリギリよりも少し内側の辺りの距離感を保ちながら、メタン湿地に近づいていきます。
湿地、ということであれば水気があるでしょう。
水気があるならば、そこは濡れているということ。それならば、<修復>が活用できるかもしれません。
イザヤ様に援護をしていただきながら、わたしはメタン湿地に足を踏み入れました。




