011 冒険者登録をする場所は?
「冒険者登録は、どこですれば良いのでしょうか」
「大きな街であれば、どこでも冒険者ギルドがあるはずだよ。一番近い所で言えば、ラゴサかな」
お母様は、冒険者を下賤の者とおっしゃっていました。お母様はウォルフォード家の長子だったので、ウォルフォード領内にはギルドがないのでしょう。
ネレピス山脈を越えるつもりでいたので、ラゴサに向かうためには領内を縦断しなければいけません。
「問題は、エミリアを追う人がどれだけいるかだよね」
「わたしには、そこまでの人員を割く価値はないと思いますが」
「え、でも、エミリアはウォルフォードのお嬢様でしょ? そうじゃなくても、普通の親は娘がいなくなったら捜索するものじゃないの?」
「普通、という定義が、わたしにはわかりかねます。なるほど、捜索されるのが普通なのですね」
わたしが納得していると、イザヤ様はお顔を歪めます。
何か気に触るようなことを言ってしまったのかと焦りました。
「あ、あの、イザヤ様。わたしには常識が欠如している自覚があります。気づかぬ内にイザヤ様を傷つけてしまっていたら嫌です。どの言葉に気分を害されましたか」
「いや……エミリアは何も悪くないよ」
「ですが……」
「ちょっと、質問しても良いかな?」
「はい。何なりと」
イザヤ様に質問されるまま、わたしは答えました。
十年前の「六才の祝福」の儀式後、わたしがどんな扱いを受けたのか。
双子の姉エレノラと生活の差はどれくらいあったのか。
日常的にどんな生活を送っていたのか。
それら全てに答えると、イザヤ様は急に頭を下げました。
「ごめん! おれがエミリアを連れていかなければ、もっと贅沢ができたかもしれないのに」
「イザヤ様、頭を上げて下さい。イザヤ様は何も悪くはありません。六才の祝福時はすでに、両親からの愛情はなかったのです。……はて? あのときのことを知っているということは、あの男の子は、イザヤ様だったということでしょうか」
「そう。何度謝っても足りないと思う。あの時は子供だったなんて言い訳は、通用しない。あの日、エミリアは目立たないようにしていたのに、目立たせてしまってごめん」
声が震えているように感じるのは、イザヤ様が真面目な方だからでしょうか。
十年前のことを悔い、十年後の今、こうしてわたしを助けてくれている。
幸せになってほしいというのは、十年前のことがあるからでしょう。
チクリ、と胸が痛んだような気がしました。
わたしは風邪も引かない健康体だと思っていましたが、内臓に何か異常があるのでしょうか。
そういえば、お腹を下したことがありました。なるほど。わたしは内臓が弱いようです しかし内臓を強化するには、どうすれば良いのでしょうか。
「……エミリア。十年前に罪を犯したおれだけど、まだ一緒に行動してくれる?」
「えぇ、それはもちろん。むしろプラチナ級のイザヤ様に図々しくも、わたしが一緒にいていただきたいとお願いしたのです」
「良かった。エミリアのことは、絶対に守からね」
プラチナ級のイザヤ様が言うと、とても説得力があります。
早く冒険者登録をして、独り立ちをして、イザヤ様には本来の冒険者として活動してもらわないといけません。
「冒険者証がないと、街に入れないと伺いました。ラゴサへ行ったところで、中には入れないのではないでしょうか」
「それなら問題ないよ。通行料を払えば、誰でも入れる。ただ毎回払うのは大変だから、冒険者登録をするんだ。商人の場合は、商人登録」
「なるほど……しかし、街に住む方々は不便ではありませんか。出入りする度に通行料を払うのは」
「街の中で生活が完結しているからね。外へ出る必要はないんだ」
それが「普通」ということですね。
貴族は王宮でパーティーが開かれたり、どこそこで開かれるパーティーに参加して、と家紋入りの馬車で移動します。
それが身分を保証しているということなのでしょう。
「どこへ行くにも通行料がかかっちゃうから、冒険者登録をするなら早い方が良い。冒険者になると乗合馬車の割引をしてもらえるようになるし、できるなら一番近いラゴサが良いと思う」
「問題は、ウォルフォード領内の、わたしを捜しているかどうかの確認ですね」
「そう。ただ、エミリアもおれも目立つから、ちょっと顔を隠せるようにした方が良いね」
「わたしはわかりますが、イザヤ様も?」
「プラチナ級は、ゴールド級から所定の回数のクエストをこなしてなるんだ。魔王軍の魔獣を討伐したことが功績になって、少し早めに等級が上がったんだ。そしてプラチナ級は、国からの依頼を引き受けないといけない」
イザヤ様は冒険者証となるブレスレットは長袖の下にありました。
捲らなければ目立たないのでは、と思って首を傾げます。
「今プラチナ級は、おれと勇者のゴライアスさんしかいないんだ。他の二人は、もともと教会で働いていたり、魔塔で働いていたりして、勇者一行に選ばれたんだ」
「イザヤ様は元々、ゴールド級だったと伺いました。勇者一行に選ばれるような実力を持っていたということですね」
「ありがとう。それで、今ゴライアスさんは王都でソフィア様と暮らしている。実質、プラチナ級の冒険者はおれしかいないんだ」
「それは……イザヤ様に依頼が集中してしまいますね」
過労で倒れてしまわないかと心配していると、イザヤ様はどこか遠くを見るような目をされます。
「……魔王はまだ倒していないとはいえ、大きな勢力を削いでいる状態だ。だから国からの依頼というのは、どこそこの有力な貴族令嬢と結婚しろということなんだ」
「え゛」
思わず、令嬢らしからぬ声を出してしまいました。
そんなわたしを見て、イザヤ様が苦笑されます。
「おれは、魔王を倒してこそ本当の平和が訪れると思っている。ゴライアスさんみたいに、結婚して引退なんて中途半端なことはしたくない」
「なるほど、理解できました。これまで冒険者として活動されてきたイザヤ様は当然、各所で顔を覚えられてる。だから隠すのですね」
「そういうこと。ただ、ウォルフォード領内であれば、冒険者ギルドがないからあまり知られていないかな。ちょっと、偵察がてら顔を隠せる何かを捜してくるよ」
すぐにでも出発しようとするイザヤ様の手を取り、止めました。
「いいえ、わたしも供に参ります」
「いや、でもエミリアは……」
「わたしはまだ、冒険者にもなれていません。相棒の蝶以外に魔獣が出ても、対処できないと思います」
「言われてみればそうだ。でも、髪色はどうする? オレンジみのある白は綺麗だと思うけど、目立つよ」
イザヤ様に問われ、最適な方法を考えます。
今いるのは森の中なので、自然物を煮た汁で染めることはできるかもしれません。
ですがそれは、知識もなく、万が一健康を害するような物だった場合はその対応をしないといけなくなります。
道具もないため現実ではなく、染めることは却下ですね。
では、他にどんな方法があるでしょうか。
じっと、イザヤ様を見つめます。イザヤ様は不思議そうに首を傾げました。
イザヤ様とわたしの身長差。そして今は九月の終わり頃。外套を着ていても不思議ではない気候になってきました。
……この方法ならば、可能なのでは!?
わたしは、名案を思いつきました。
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