106 <念話>
<念話>が使える友獣は、ファラとカッチャ。ファラは進化しましたので、カッチャのスキルとして使います。
<イザヤ様。聞こえますか>
使ってみましたが、イザヤ様からの反応がありません。
イザヤ様がわたしを見つめるだけ、というわたしが得する時間になりました。
もしかしたら、<念話>したい相手に触れていなければいけないのかもしれません。
「イザヤ様。練習のため、お手を拝借してよろしいでしょうか」
「わかった」
わたしの手に、イザヤ様の厚い手が置かれました。
思わず右手から感じる熱を享受したくなってしまいましたが、今は練習時間だと深く息を吸って律します。
<イザヤ様。聞こえますか>
<あっ。聞こえた! すごいね>
<っっっ!!>
<念話>は、成功しました。
が、しかし。
わたしは、思わずイザヤ様から手を離してしまいました。
というのも、<念話>は恐ろしいスキルだったのです。もしかしたら、使い手によって違うかもしれません。
わたしは、耳元で直接イザヤ様のお声を聞いたような感覚になってしまいました。イザヤ様のお声を、耳元で!!
正確に言えば、少し違うのでしょう。耳元で話されたかのように、頭に響いたという感じです。
好きだと自覚したばかりの、イザヤ様のお声を耳元で聞く――ような、感覚になる。
なんて、恐ろしいスキルでしょうか。
イザヤ様の、優しくも強い意思を秘めたかのような凛々しいお声が、耳元でするのです。焦って手を離して、蹲ってしまっても仕方なしと思います。
「エミリア。大丈夫?」
「えぇ、はい。問題ないです。わたしは大丈夫です。ですが、もう一つの可能性を試してみても良いでしょうか」
「ん? わ、わかった」
自分の言葉が支離滅裂なのはわかっています。
問題ないと言いながら、問題があったかのように他の方法を試すと提案。
イザヤ様が混乱するのも仕方なし、です。
わたしは左耳の五番目にあるアロイカフスを二度触り、カッチャを出します。
<ご主人! 何して遊ぶ!?>
「カッチャ。イザヤ様に触れてもらえますか」
<嫌だ! ご主人とくっつく!>
「カッチャ、どうかお願いします」
<……わかった! ご主人のため!>
わたしの説得に応じてくださったカッチャが、イザヤ様の足を後ろ足で踏みます。
オレンジみのある白いもふもふに肉球がありますので、痛みはないと思いますが他に接触する方法はなかったのでしょうか。
イザヤ様を窺えば、特に痛みを訴える様子はありません。それどころか、ご自分の足下に来たカッチャを撫でようと手を伸ばします。
<お前は触るな!>
カッチャが、鋭い牙をむき出しにしてイザヤ様の手を噛もうとしました。
イザヤ様が、一瞬眉を寄せます。威嚇しているカッチャが、イザヤ様の足に置いている後ろ足に力を入れたのでしょうか。
「ごめん、エミリア。練習を再開しよう」
「は、はい……」
イザヤ様に促され、次なる練習を始めます。
先程はわたしがイザヤ様に触れていないと<念話>を発動できませんでした。
しかし今度は、<念話>を使う友獣が触れている状態で、わたしは触れないという方法です。
<イザヤ様。聞こえますか>
<聞こえるよ。この方法でも聞こえるんだね>
イザヤ様の優しくも凛としたお声が、また耳元に響きます。
今はカッチャが触れている状態ですので、わたしが離れる必要はありません。ですが、どうしても身構えてしまいました。
<こいつ、悪い奴!>
「カッチャ! いけません!」
わたしの気持ちを感じ取ったのか、カッチャがイザヤ様の脛に噛みつきます。
ですがイザヤ様は、しっかりと噛まれているにも関わらず何も言いません。ただカッチャをじっと見つめています。
次第に、カッチャが居心地悪そうな顔になり、自らイザヤ様から離れました。
<ご主人! もう帰る!>
「カッチャ。協力ありがとうございました」
左耳の五番目のアロイカフスを触り、涙目になっていたカッチャを戻します。
わたしはすかさず、イザヤ様の脛に<治癒>をかけました。
「申し訳ありません、イザヤ様」
「<念話>の状態でも、カッチャの声は聞こえないんだね。カッチャは何て言っていたの?」
「そ、それは……」
イザヤ様のお声を耳元で効くのは、心臓に悪いです。わたしが勝手に、イザヤ様のお声に反応していただけなのですが、どう伝えましょうか。
「そ、そうだ。イザヤ様がどんな状態だったか伺いたいのですが、わたしと<念話>しているとき、どんな感じでしたか」
「頭の中に直接響いている感じかな」
「耳元で響いている感じではなく?」
わたしの問いに、イザヤ様は頷かれました。
そんなイザヤ様を見て、思ってしまいます。
もし、イザヤ様もわたしの声が耳元で聞こえるような感覚だったら。
イザヤ様は、どんな反応をしてくださるでしょうか。
わたしと同じように、挙動不審に?
それとも単純に、耳元で声がすることによる驚きでしょうか。
なんにせよ、わたしにとっては少々――いえ、かなり心臓に悪いスキルです。何度も使えません。
まだドキドキしている余韻の中、心を落ちつかせるためにカッチャの技能牧場を開きます。
<念話>は、<スキルⅡ>のスキルでした。
カッチャの名前の隣には<+19>とあります。わたしは三分近くも、イザヤ様と<念話>で繋がっていたらしいです。
これは、わたし頑張りましたよね? 十九回も開拓を進めれば、<忠誠Ⅱ>にも到達すると思います。




