105 心を保つため
王都の中心部から戻ると、お兄様はまだ戻られていませんでした。
お兄様の補佐役兼庭師のビィーロ様に応接室まで案内されます。お兄様の家では働く方がそれぞれ仕事を兼務していますので、すぐにビィーロ様は庭へ行きました。
通された応接室には、イザヤ様と二人きりです。ですが、定期的に人の気配を感じました。
ある意味、未婚の男女が一緒にいることへの配慮かもしれません。
完全な二人きりではない今の状況が、少しありがたいです。
「お兄さんが戻るまで、どうしていようか」
「そ、そうですねっ」
「エミリア? 気分が悪いなら、休んでる?」
「だ、大丈夫ですっ。わ、わたしはっ、技能牧場の開拓を、しますっ」
「そういえば、<健康>を使ったって言っていたね。終わったら、また結果を教えて」
「も、もちろんですともっ」
イザヤ様の一挙手一投足のすべてが気になってしまいます。
わたしを運ぼうと腰を上げてくださることも、わたしの言動を覚えてくださっていることも。
すべてを嬉しいと感じてしまい、思わず声が上擦ってしまいます。
自覚したばかりなので、それも仕方なしでしょう。
ですが、ふと、疑問に思いました。
わたしはイザヤ様が好きです。だから、挙動不審になりがちになってしまいます。
わたしと、イザヤ様。
自分との行動を比較することによって、自ずと答えが出てしまいました。
……イザヤ様のために、早く独り立ちしなければ。
わたしは、斜向かいに座るイザヤ様のすべてが気になってしまいます。行動も、お言葉も。
ですが、イザヤ様はわたしと同じではありません。心配りは最高級のものではありますが、好きな人が近くにいる挙動不審さは全然見受けられないのです。
それは、つまり。
イザヤ様の好きな方は、わたしではないということ。
ぎゅっと、目を強く瞑りました。
そうしないと、目から涙が零れてしまいそうだったので。
泣くならば、イザヤ様がいない場所にしなければいけません。
ですが今は、ドニー様の術があります。イザヤ様と離れられません。離れたいとは思っていませんでしたが、こういうときに困りますね。
<健康>を、胸元にかけます。そうすることで、悲しいという気持ちも落ち着きました。
イザヤ様の好きな方について考え始めると何度も<健康>に頼ってしまいそうになりますので、心を保つために技能牧場を開拓します。
今回の開拓は、半魚人型友獣と、猫型友獣の二体です。
まず、冒険者ギルドにて使用した<修復>ですね。これはメシュなので、開拓回数は一回です。
メシュは現在、<スキルⅠ>の右から三番目と四番目を開拓している状態でした。
メシュは味覚を鋭くする友獣。イザヤ様は嗅覚と味覚を失ってしまっていますので、進化は必須です。
今回は、<スキルⅡ>の右から三番目を開拓しました。
続いて、ガットの開拓です。
ガットの名前の横には、<+5>とありました。わたしは、そんなに使っていたのですね。
ガットも、進化を目指す子です。
<スキルⅢ>、<忠誠Ⅰ>は右端を。
<器用Ⅰ>は右端とその隣を。
<技能>は右から二番目を開拓です。
100万以下は端数切り捨てとなりますので、<スキルⅢ>だけ増えたということになりました。
ドニー様から仕掛けられた術により、わたしとイザヤ様は離れられない状態になっています。
それを解消するためには、わたしの攻撃力値を100万よりも上げないといけません。
ですが、友獣の進化を狙っていくと、元々難しい攻撃力値の上昇がさらに難しくなります。
ひとまず、イザヤ様には<スキルⅡ>と<スキルⅢ>が上がったことを報告しました。
「攻撃力値を上げるために一番やりやすそうなのは、<忠誠Ⅱ>をあげることだよね。友獣の中で、可能性がありそうな子はいる?」
「確認しますね」
イザヤ様からの問いに答えるため、わたしは技能牧場を開きます。
指輪に触ったりアロイカフスに触ったりして、可能性のある子を捜しました。
「……使うスキルに偏りがあるせいか、一回や二回で<忠誠Ⅱ>に行きそうな子はいませんね」
「そっか……。<治癒>は万能だし、最近は<健康>もある。<修復>も限定的だし、<修繕>もそこまで使うわけじゃない。エミリアはテイマーだし、魔獣と戦うときに力を借りる方が良いかな」
「そうですね。ただスキルとは違い、確実にわたしと共闘したという判定が出ないと開拓を進められません」
地属性の<宝検知>、風属性の<風読>等々、あれば便利なものの使う機会が多くないスキルもあります。
もっと手軽に、と言ったら少々語弊はありますが、気軽に使えるスキルがあれば良いのですが。
技能牧場を見ながら友獣方のスキルを見ていたとき、まさに今練習しておいた方がよいのではというスキルを発見しました。
「イザヤ様! お兄様もまだのようですので、一つ練習したいスキルがあります」
「へえ、なに?」
「<念話>です。これはわたしとわたしが心を許している相手のみ、声に出さないで話せます。いざというときに困らないよう、練習相手としてお願いできませんか」
「問題ないよ。でも、その条件はおれに当てはまるかな」
「それこそ、問題ないと思います!」
「え?」
うっかりした発言を聞き返されそうだったので、わたしは早速<念話>の練習を始めます。
現在のステータス
<攻撃力、100万>
<防御力、100万>
<敏捷性、100万>
<幸運、100万>
<技能、100万>
<器用、100万>
<体力、85>
<スキルⅠ、552>
<スキルII、363>
<スキルIII、294>




