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001 六歳の祝福

 この回と次回。

 視点人物は六歳で一人称ですが、読みやすさ重視の文体にしてあります。


「エレノラ・ウォルフォード様。こちらへ」


 わたしの双子の姉が呼ばれる。わたしはこそこそと教会の窓から中を覗いた。


 エレノラは秋の空のような鮮やかな青い髪をなびかせ、最後尾の席から神官様の所へ行く。髪と同じ色の瞳には自信が溢れていて、性別問わずその姿を追ってる。白いドレスに青いレースの装飾は、エレノラにすごく似合っていると思う。


 今は、六歳の祝福と呼ばれる儀式の最中。ウォルフォード領内の、一番大きな教会に二十人くらいの子供が集まってる。みんな、儀式に参加するために着飾ってた。

 ここは、子供の足でも家から行ける距離にあるんだ。


 この儀式では、属性診断装置に指を置いて対象者が持っている魔法の属性が何かを見るみたい。

 土、水、風、火のどれかの属性を持っていることを表すように、エレノラだけでなく教会にいる子供達は黒、青、緑、赤のどれかの髪色。

 魔力持ちであれば、大体産まれた瞬間から色がわかるんだって。だからこの儀式は、その念押しのようなもの。


――産まれたときはね、期待したのよ? もしかしたら遅れて色がつくかもって――


――本当にあの子も儀式に参加させるの? ウォルフォード家が恥をかくだけよ。

――双子として出生届を出している。参加させない訳にはいかない。

――それなら、問題ないわ。さすがに死亡届は出せないけれど、あの子の姿を外にさらしたことはないもの。病弱で受けられないということにしましょう――


 少し前に聞いた話と、昨日聞いたばかりの話。食器を下げに行ったときに聞いてしまった。


 そう。本来わたしは、この場所にいてはいけないのだ。オレンジみのある白色と言えれば良いという状態の、ほぼ白い髪と瞳。エレノラからはおばあちゃんって言われる。

 エレノラがわたしのいる小屋に来て儀式のことを話していたから、どんな感じなのかなって思って、顔を隠せるフードがついた服を着て来た。


 エレノラが属性診断装置に指を置く。その瞬間、パッと明るく青い光が点った。その明かりは強く、教会内にいる誰もが感心の声を上げる。

 その中でも神官様は、興奮気味にエレノラを褒め称えているみたい。


 ふむふむ。やっぱりエレノラはすごいな。王都の教会本部で勉強すれば、聖女にもなれるって。

 エレノラと一緒に来ていたお父さまとお母さまも、誇らしげだ。


 いいなぁ。お父さまとお母さまと一緒にいられて。


 四歳になるまでは、わたしも本宅(おうち)にいられた。

 でも、四歳になっても髪や瞳の色が変化しないから、本宅から敷地の奧の小屋で暮らすように言われている。


 エレノラの儀式も見たし、見つからない内に帰ろうかな。

 そう、思っていたとき。


「おまえも、ぎしきにきたのか」


 大樹のような焦げ茶色の髪と瞳をした男の子が、わたしのすぐ横にいた。


「びんぼうにんは、さんかできないって。そんなの、よくない。いっしょにいくぞ」

「えっ、ちょっと……」


 男の子に腕を引かれ、教会の入口の方へ歩かされる。

 わたしがここに来ていることがばれちゃいけないから、掴まれた手を解こうとするんだけど……。

 わたしの抵抗よりも先に、男の子が教会の扉を開けてしまった。


「何事ですか」

「ろくさいのこどもは、みんな、ぎしきをうけるけんりがある!」

「全てではありません。選ばれし人間は、産まれた瞬間から違うのです。あなたは焦げ茶。つまりは、魔力がない凡人。儀式の邪魔をするなら子供でも容赦はしませんよ」


 神官様は、かなり怒っているみたい。丁寧な言葉遣いなのに、顔が笑っていなかった。


 声を出したらお父さまとお母さまにばれちゃう。

 わたしの手を掴んでいる男の子の手を握って、外へ行くように引っ張る。

 男の子は、逆にわたしの手を強く握って神官様の方へ進み始めた。


 ちょっと、まって! とまって!!


 同じ年なのに、男の子の力が強くて逃げ出せない。

 男の子に連れられて、神官様の前――エレノラがいる前まで進んでしまった。

 わたしはとっさに、フードをさらに深く下げて体の向きを変える。

 その行動を怪しまれて、エレノラがわたしの顔を覗いてきた。


 ばっちりと目が合ったエレノラは、にっこりと笑う。


「あれぇ? ここにいるこどもはみんな六才のはずなのに、どうしておばあちゃんがいるのぉ?」

「おばあちゃん?」


 男の子が首を傾げる。

 エレノラが、わたしの正体を暴くかのようにフードを強引に取った。

 その瞬間、教会内がどよめく。入口の方からは、誰かが慌てて立ち上がったような音がした。


 エレノラは、クスクスと笑うように手を自分の口に当てている。


「ねぇ、エミリアおばあちゃん? なん」

「エレノラ!」


 エレノラがわたしの名前を呼んだ瞬間、お母さまが叱責するように祭壇に近づいてきた。

 エレノラの手を掴むと、わたしを睨む。そして強引に、エレノラの手を引いて教会を出て行く。エレノラは不満を言っているみたい。

 お父さまも、慌てたように教会を出て行った。


 お母さまはいつも、ウォルフォード家は隣の国との辺境を守っている誇り高い家だと言っている。だから声を荒げることはない。先に立ち上がったのも、たぶんお父さま。

 そんなお母さまが悪目立ちするようなことをした。わたしの名前が出てしまったことが、よっぽど耐えられなかったのかもしれない。


 姿が見られてしまっただけなら、まだエレノラと良く似た子供と言えたと思う。

 でも、エレノラはわたしの名前を呼んだ。

 それは、良く似た子供ではなく双子だと――ウォルフォード家の子供だと示してしまったようなもの。


 うぅ……。かえりたくないなぁ。


 姿を晒さなければ、わたしはずっと「病弱な娘」でいられた。

 でも、エレノラに暴かれてしまった。色以外はエレノラとそっくりな見た目を、晒してしまった。


 帰りたくなくても、わたしはまだ六才だ。六才の子供が生活していけるほど、世間は優しくない。


 かえる……しか、ないよね。


 男の子は、今の騒動でわたしの手を離してくれていた。たぶん、びっくりしたんだと思う。わたしの姿にも、正体にも。


 わたしはフードを被り直して、重たい足を動かす。教会を出ようとすると、ザッと音を立てて雨が降り始めた。

 わたしの足は、さらに重くなる。


 どれだけ帰りたくなくても、わたしにはまだ、一人で生きる術がない。



 本日、もう一つ更新します。

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