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第8話 まぁそりゃそうだよな

「———誰でも手軽に10メートル級の岩石も破壊できる爆弾いりませんかー!? しかも1つたったの5000マニ! これさえあれば大抵のモンスターは倒せます!」


 レティシアの処罰を受け、無事レティシアからの承諾も得た次の日。

 朝一で学園に登校して準備を済ませた俺は、早速学園の一角で、爆弾の入った箱の前に立って声を張り上げ、爆弾の販売を開始していた。


 とはいえ———状況は芳しくない。


「何だよあの黒いの……」

「爆弾って何だよ……てかあんな小さいのでそんな高い威力出るわけないだろ……」

「何がしたいんだ、アイツ……?」

「さぁ? 頭がおかしいんだろ。じゃないと入学2日目でこんな馬鹿なことしないっつーの。貧乏人は頭も残念な奴が多いらしい」


 おい最後の奴、俺の悪口はまだあれだけど……貧乏人って枠で括るなよ。

 貧乏人にもお前なんかよりよっぽど頭が良い奴は腐るほどいるんだぞ。


 なんて反論もそこそこに、俺は小さくため息を吐く。

 幾ら金遣いの荒い貴族のボンボン達の巣窟である学園でも、流石にこんな怪しさ満載の物を買う人などまず居ないらしい。

 まぁ仮に買う人が居たら俺の方がびっくりして『え、ホントに買うんですか?』って思わず聞き返してしまいそうだ。


 だが———この程度想定内。

 寧ろ面白いくらい想定内過ぎて笑ってしまいそうだ。

 さて、ここで1つ質問をしよう。


 Q.ボンボン達は怪しい物は買いません。ですが、流されやすいです。どうすれば良いでしょうか?


 A———





「へぇ……面白そうね。ただ……貴方が言う威力は本当なのかしら?」



 


 ———リーダー的存在が積極的な姿勢を見せる、だ。


 レティシアは貴族の中で最上位の公爵。

 しかもその美貌と成績から、貴族のボンボン達からの人気も高い。


 そんな大人気公爵令嬢ことレティシアが興味を示したことにより、周りの生徒達がざわめき始める。よしよしいい感じだ。

 俺は予め土下座で頼み込んだレティシアの台本通りの問い掛けに、これみよがしに周りに聞こえる程の大声で言葉を返す。


「もちろんです! 何なら……一度試してみますか? あちらに中級魔法用の的を置いていますので、是非ともあそこに投げて下さい」


 因みに中級魔法用の的の強度は、石より固く、鉄より柔らかい……といった程度。

 なら、大岩を軽々破壊できる俺の爆弾でも十二分に破壊できる……はずだ。多分。


「これは……どうやって使うのかしら?」

「爆弾に魔力を流して的に向かって投げて下されば、あとは物にぶつかった衝撃で爆発します」

「へぇ……簡単ね」


 レティシアは台本通りに言うと、爆弾に魔力を流し込み……軽く的へ投げる。

 爆弾が的に飛んでいくと共に、生徒達の視線を的に吸い込まれていくのが見えた。



 ———ドカァァァァンッッ!!



 的に爆弾が当たると同時に爆発し、爆発音を響かせながら爆炎を上げる。

 爆発によって抉られた回りの土が舞い上がり、砂埃となって炎と的を隠す。


 さぁどうだ……!

 俺の予測が正しければ、多分的は破壊されてるはず———キタァァァアアアア!!


 レティシアの魔法によって砂埃が散らされ、吹き飛んで周りに粉々になって散らばる的の姿を確認した俺は、内心喜びの雄叫びを上げる。

 同時に、この演習を見ていた生徒達の間でどよめきが走る。


「う、嘘だろ……!? 本当に中級魔法用の的が木っ端微塵になったぞ……!」

「あんな小さいので俺達の魔法より威力が高いだと……!?」

「す、凄い……」


 ほうほう……あと一押しといったところか。

 よし、トドメと行くぜ!

 くっくっくっ……お前らの財布口をガバガバにしてやるからな!


「お客様、如何でしたか?」

「良いわね……10個貰うわ」


 あ、あれ……?

 確か予定では1つじゃなかったっけ?


 なんて一瞬思うも、まぁ買ってくれるならいっか、と俺は考えるのを放棄してレティシアから差し出されたお金と爆弾を交換する。

 まぁお金を貰うのはあくまで周りを騙すためのフリなので、後でちゃんとお金は返すが。もちろん爆弾は無料であげる。


「お買い上げ誠にありがとうございました!」

「ええ、また買うわ」


 フッと微笑を浮かべたレティシアが爆弾を受け取りながら言う。

 しかしその言葉では終わらず……レティシアが頭を下げる俺の耳元まで顔を寄せた瞬間。



「———頑張って、アルト」



 透き通った天然水のような声で囁いてきた。

 驚いてレティシアを見れば、誰からも顔が見えない位置で楽しそうに悪戯っぽい笑みを浮かべ……惚ける俺を見て、満足気に校舎に戻って行った。

 そんな彼女と入れ替わるように、無数の生徒が集まって来る。

 正しく雪崩のような勢いだ。雪崩と違って集まってくるのは暑苦しい欲望に塗れたボンボン達だが。

 

「———お、俺買います!」

「俺も2個買います!」

「わ、私も! これを親に送りますわ!」

「私には5個頂戴!」

「ぼ、僕には3個……」


 くくっ、ふははははっ、まんまと掛かりやがって……このボンクラ共め!


 対して説明も聞かずに次々と、四方から渡されるお金を受け取りながら、俺は内心ほくそ笑む。

 何なら顔にも出ていそうだが……そうなるのも仕方ないと思う。 


 実はこの爆弾……原価は無料、作るのも意外と簡単なのだ。

 それも多分作り方を教われば、大体数十分で習得出来るレベル。

 2時間程度で全身に巻く用プラスαが出来るのが良い証拠だ。



 まぁつまり———超ぼったくり。

 


 あああぁぁ儲かるなぁ〜〜。

 やっぱり公爵の地位って凄いなぁ〜〜そんな公爵より上の位の人に喧嘩売る俺ってやっぱりヤバいなーー……ははっ。

 

 ウキウキな心で客を捌いていたはずが、いつの間にかテンションが下がっていく。

 未来はやはり暗い……なんて考えていたその時。






『———アルト・バーサク、指導室まで来い。いいか、どんな事情があろうと全てを無視して指導室に来い。今直ぐにッッ!!』






 拡声魔法越しにも分かるくらいブチギレた様子の教師の誰かに呼び出しを食らう。

 そのあまりのブチギレ具合と此方に向かってくる教師達の姿に———。



「…………れ、レティシアさまぁ……」



 自分でもビックリするくらいの情けない声が漏れるのだった。

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