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第6話 俺はもう、やらかしていた

 ———事態は、既に俺1人でどうこうできる領域ではなかった。


 スレ民の安価で決まったレティシア大好き設定から話は飛躍し、今やレティシア本人に略奪をお願いされている身になってしまっている。

 自分で『婚約者にしろ!』と言っておきながらなんだが、処罰として略奪をお願いされるとか普通に意味が分からない。


 なに、レティシアってアルベルトのこと嫌いなん?

 あんなクソイケメンで地位もあって成績優秀そうな奴が嫌いとか世も末でしょ。

 俺的には生きるためとはいえ、アルベルトには非常に申し訳ない気持ちで一杯なんですけれども。


「あの……処罰がそれで良かったのですか? もしかしてアルベルト殿下となにかあるのですか……?」


 俺は顔色を窺いながら恐る恐る口を開く。

 まぁ今更顔色を窺ったところで意味はないのかもしれないが……念の為という奴だ。


 なんて色々と言い訳を垂れる俺に、レティシアは端整な顔に自嘲の笑みを貼り付けながらポツリと零す。


「……まぁ、あるにはあるわね」


 これはあれだ、聞いちゃいけない系だ。

 何も分からない俺でも分かる。


 何処か陰りのある表情を浮かべたレティシアの姿に、俺は話題を変えようと慌てて口を開く。


「と、ところでフリージング公爵令嬢様は……」

「———その言い方、変よ」

「え?」

「普通はフリージング様とかよ? まぁ貴方はこれから私の特別になるのだし、期待を籠めてレティシアで良いわ」


 先程とは打って変わって楽しそうにクスクス笑うレティシア。

 なまじ物凄い美少女だから、その笑顔1つで本気で惚れそうになってしまう。悲しき男の性だ。

 

「さぁ言ってみなさい」

「そ、それでは……れ、レティシア……様」


 ごめんなさい、ヘタれました。

 ロクに女性と関わったことがないんです。

 だから、そんなジト目で見ないでください。


「……アルト? 私がなんて言ったか憶えてる?」

「えっと……」

「私を脅している時は出来てたじゃない。なんで今は出来ないのよ」


 脅してる時は自分であって自分じゃなかったんです。

 自暴自棄と言いますか……自分を見失っていたといいますか……。


 そう言えたらいいのだが、レティシアの言わせるまで追求すると言わんばかりの視線に気圧されて声にならなかった。


「…………レティシア」

「そうよ、それで良いの」


 観念したというか覚悟したというか。

 兎に角呼び捨てで呼んだ俺へ機嫌良さそうに笑うレティシアの姿に、取り敢えず安堵に胸を撫で下ろす。

 正直緊張でどうにかなりそうだが。


 だって下手なことをやらかして首が飛ぶのは間違いなく俺だぞ?

 目の前に死神が座ってるようなもんなのに緊張しない奴がいるかよ。

 いたら是非とも会ってみたいもんだ。


 俺は早く退散したい気持ちを抑え、機嫌の良さそうなレティシアに尋ねる……前に彼女が自嘲気味に呟いた。



「……殿下、昔から女癖が酷いの。学園に入っても変わらないみたい」



 あの……俺が話題を変えた意味は?

 それにテンションがジェットコースターより激しいですね———ごめんなさい。


 傷付いたような、そっと心の傷に触れるような彼女の表情に、俺は本格的にやらかしたのだと自覚する。

 普通に茶化したり、自暴自棄がどうこう言ってられない。


「……酷いですね、既に婚約者がいるというのに……」


 まぁ俺は婚約者がいる相手に告って脅したクズ中のクズだが。


 そんな言葉がするっと口に出そうになったのをギリギリで抑える俺に、レティシアが一瞬此方を見た後で目を伏せた。


「彼の婚約者として色々と犠牲にして生きてきたけれど……きっと、私のような可愛げのない女は嫌いなんでしょうね」


 …………アルベルトとかいう王子、とんでもない男じゃないか。

 顔が良いからって女を食い物にしてるってか。

 

「……やってやりましょう」

「え?」


 レティシアが顔を上げる。

 俺は、そんな彼女にグッと拳を握って言った。




「———なんとしても、アルベルト殿下にレティシアが本当に素晴らしい女性だったと気付かせてやりましょう!」



 こんなの俺の柄ではないが、普通に可哀想過ぎるし……何より美少女だ。

 こんな美少女のお願いを無碍にするのは万死に値する———と誰かが言ってた気がする。

 あとは普通にアルベルトへの嫉妬だ。男の夢を目の前で実現させた奴を許してはおけない。


 なんていつになくやる気な俺だが……僅かに口角を上げるレティシアを見て、ふと思った。


 …………あれ? 俺、1国の王子から婚約者を略奪するの?

 処刑でもおかしくないのに……それに嬉々として乗ろうとしてたの、俺?


 冷静になった頭が、自分のお馬鹿加減に強烈な痛みを覚え始める。

 同時に、俺の中に湧き上がったやる気が萎んでいくのを感じた。


「……ち、因みになんですけど。お、俺はこれからどうすれば良いんですかね……?」


 俺がそう尋ねれば、レティシアが顎に手を添えて思案する。


「そうね……貴方、借金があるんだったわね。まぁ———借金は私の方でどうにかしてあげるから気にしなくて良いわ」

「……え、良いんですか……?」


 今、俺の1番の足枷となっている借金。

 それを、さもなんてことない風に全額負担してくれると宣うレティシア。

 もしかしたら彼女は美少女ではなく女神なのかもしれない。


「それくらいなら別に良いわ。ただ……貴方がアルベルト殿下より私に相応しい人物であると証明しなさい。そうね……取り敢えず上級以上の精霊と契約して、A級ダンジョンを攻略出来るくらいにはなって欲しいわね。それが達成できれば、十二分にアルベルト殿下に比肩する肩書きが得られるわ。その後はまた考えればいいわね」

「………………へ?」


 ちょっと待って。

 A級ダンジョンがどれくらいかはさっぱり分かんないけど……じょ、上級精霊……?

 無理無理無理無理……王国にいる精霊使い達が数万人規模なのに対して上級精霊使いはたった30〜50人程度だぞ……?

 間違えていた、彼女は女神ではなく悪魔だったんだ。


 あまりのハードルの高さに、もう空笑いしか出てこない。

 だが、やり遂げないと色々やらかした手前、何されるか分からないわけで……。

 

「は、ははっ……が、頑張りますね……」

「うん、頑張ってね。あ、でも、何をするのかはちゃんと私に教えるのよ?」

「……はい」


 す、スレみーん! 

 俺、物凄くやらかしちゃったかもしんないっ!

 助けてください、いやマジで!!


 胸中を焦りが満たした。

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