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第10話 解。天使は存在する、が。

「———なるほど、そういうことがあったのですね……。怖がらせちゃってごめんね、アルト君」


 オロオロするヴァイオレット・フローラ先生に事情を説明すると、申し訳無さそうに眉を八の字にして謝ってくる。

 だが、今の俺の頭はさっきと今の先生の態度やら口調やらの違いでパンク状態。そんなことないですよーすら言えなかった。

 それを察してか、先生が伏し目がちに説明してくれる。

 

「私……二重人格なんだ。物心付いた時には1つの体に私とヴァイオレットちゃんの2人がいて……あ、ヴァイオレットちゃんがさっきまでの子で、私はフローラって名乗っているんだよ。それで、ヴァイオレットちゃんは悪い子ではないんだけれど……ちょっと威圧的というか、その……ね?」

「言いたいことは分かります」


 ヴァイオレットちゃんめっちゃ怖かったもん。

 ホント、マジで殺されるかと思ったもん。


 なんて思い出して身震いしていると。


「でもその……ヴァイオレットちゃんのこと、嫌わないであげてね?」


 フローラさんがうるうるした目で俺を見つめてくる。しかも上目遣いだ。

 さっきまでは顔を近付けられると死を覚悟してドキドキしていたが、今はあまりにも可愛過ぎてドキドキしている。ずっとフローラさん状態だったら良いのに。


「も、もちろんです。フローラさんが悪い子じゃない、と言うんでしたら本当なんでしょうし」

「こらっ、先生って言いなさいっ」


 むっ、と頬を膨らませ、つんつん俺の頬を突っつくフローラ先生。

 更に、椅子が1つ壊れていることによって、俺が座っていた椅子をフローラ先生に譲って俺が立っているのだが……そのせいで全ての行動が上目遣いになって、いよいよヤバい。


「は、はい、フローラ先生……」

「うんっ、これからは気を付けるんだよ? 先生を付けないと怒る厳格な先生もこの学園には多いんだからね?」

「は、はいっ……!!」


 俺の身を案じてくれていると感じる言葉と、フローラ先生の全てを包み込むような微笑みに、俺はコクコクと頷くことしか出来ない。俺は貴女の全肯定下僕です。


 待て待て待て待て……え、なにこの可愛いを凝縮させてみましたみたいな女性は。

 こんな可愛い女性がこの世に存在しても良いんですか?

 ああ、天使? 俺を憐れんだ神が降臨させた天使ですか? 

 あの時は話を聞き流したどころかトイレと嘘ついてごめんなさい。これからは貴女の全ての言葉を一言一句聞き逃さないように致します。


「……アルト君? 私を見つめてどうしたの?」

「はっ!! い、いえ、何でもないです……」

「えー、気になるなぁ。教えてくれないの?」

「見惚れてました」

「ふえっ!? アルト君!?」

「あ、いえ、えっと……」

「あ、からかってるんでしょう? もうっ……先生をからかっちゃいけませんっ」


 正直に言おう———結婚したい。

 さっき稼いだ全額使って結婚指輪買ってプロポーズしようかな。フローラ先生がいればヴァイオレット先生に殺されずに済みそうだし。

 

 だが、仮にそうするならば色々と障害がある。

 そもそも先生は大人なので、俺のようなガキ……それも問題ばかり起こすクソガキなんて相手にもされないだろう。特にヴァイオレット先生が。

 しかも俺は借金があるし、未来は真っ暗だし……。


 なんて俺が思考の海に潜っていると。


「……君……アルト君、聞いてる?」

「っ、は、はいっ、なんでしょうか……? すみません、考え事してて聞こえてませんでした……」

「むっ……今回は良いけれど……次からはちゃんと聞いてね?」

「もちろんです」


 一生の不覚だ。これからは気を付けよう。

 具体的には、フローラ先生の前では全ての思考を目の前先生だけに集中させる。

 

 なんて猛省している俺を、フローラ先生が仕方ないなぁという風に包容力のある笑みを浮かべて言った。


「アルト君がどんな経緯で爆弾……? を売っていたのかは分からないけれど、次からはこんなことしちゃダメだよ? もちろん学園に侵入するのもだーめ。いい?」

「ふぁい」


 ヤバい、頬がニヤけすぎてヘニャヘニャな声になってしまった。

 そうすればもちろん———




「———こらっ、ちゃんと反省してるの?」




 むす顔きちゃああああああああああああああああああっ!! 

 し、死ねるっ、この顔を見れた今なら、俺は死んでもかまわないっ!


 なんて内心大歓喜に見舞われる俺は、必死にポーカーフェイスを意識する。俺はロボットだ。ロボットになるんだ。


「……反省してます、ごめんなさい……」

「はい、次からは気を付けてね」


 無理でした。

 現在進行形でニヤケが止まりません。頭を下げてなかったらきっとバレてます。多分顔も真っ赤です。間違いなくキモいです。


 この世界に来て1番の幸福を味わっていたその時———。








「———ア・ル・ト?」







 頭を上げる俺の肩にポンッと手を置かれる。

 ギギギッとロボットの如く首を動かせば……黒い笑みを浮かべたレティシアの顔があった。


 瞬間、全身から滝のように汗が噴き出す。

 身体の震えが止まらず、心臓が今日一鼓動を刻んでいる。意識も朦朧としてきた気がする。

 そんな俺の耳元で、彼女はボソッと囁いた。




 『その顔、どうしたの?』———と。




 ……………ッスーーーー。



 ———【急募】レティシアの前で他の女性に思いっきりデレデレしてしまったんだが、どうすればいい?【助けて】———

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