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大背徳  作者: 稲田心楽
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7

 

 純はグラスのビールを飲み干す。最近、テレビやSNS等でよく耳するようになった“イキる”というワードがずっと気になっていた。東京生まれの東京育ちの純には耳慣れないものだった。とはいえ、父親は静岡だし、母親は横浜であるから、生粋のという訳ではない。



「イキってへんがな。はよ冷酒出したり。坊ちゃんグラスも瓶も空やがな」



 純はゲンさんの“坊ちゃん”に反応したが、それよりも“イキる”の意味について脳内を支配されていた。


「ごめんな。お客さん、これあのけったいなおっさんからやわ。飲んだって」


 目の前に汗をかいた冷酒の瓶と小さなガラスのおちょこが置かれる。純は大将に“イキる”の意味について聞きたかったが、言葉が出てこない。もともと人見知りな性格だし、昔から純を知る者からははよく営業マンが勤まるなと思われいた。大学を出てから16年も就いた職だ。課長代理まで出世したが、エリートではない。完全にレールからは外れていたが、若い妻もいるし、特に不満がある訳ではなかった。仕事上のストレスなどはどの職種にでもある訳で、営業マン時代はさほど感じる事はなかった。しかし、離婚後に色々なものが吹き出したのか、営業マンであった16年は、今思い返すとストレス地獄そのものだったのかもしれない。対面する相手は常にお客様や格上の人ばかり。無理難題にも笑顔で対応し、会社に戻れば棒グラフの長さがその人物の価値だ。パワハラやモラハラなどは日常茶飯事に行われていた。そんな中、心の中では常に誰かの欠点を見つけてはニヤニヤと突っ込みを入れていた。業務中も、『これは仕事ではない。人間観察なんだ』と意味不明な現実逃避で知らず知らずのうちにバランスを保っていたのかもしれない。だが、その“人間観察”という名の業務が今この大阪という土地で開花しようとしていた。心の声を外に出す事によって──。


「すいません。イキってるってなんですか?」


 純はゲンさんに聞く。ゲンさんは、ギョロッとした目を更に見開いて純を見ていた。


「イキるいうのは、イキってるいう事やな。つまり」


「いや、つまり! 全くつまってないから」



 純は今までの鬱憤を晴らすかのようにゲンさんを突っ込んだ。


「めっちゃキレとるな! 僕、何かやってたんか?」


「僕僕。毎回違うな。呼び方」

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