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『酒でも飲まなきゃやってらんない……』
新大阪から適当に電車を乗り継いで適当な駅で降りたこの街。完全なガチャだ。別に観光で来たわけではない。誰にも見つからない場所で、好きな事をしてみたくなった。改札を出て清掃が行き届いていない灰色の階段を降りると、不快な臭いが鼻腔を刺激した。動物の排泄物にも似たアンモニア臭が漂う。一見普通に見える街並みだが、直ぐに異様だと感じた。朝から缶チューハイ片手に徘徊しているおじさん、飲食店の前に置かれたポリバケツから、ゴミを物色しているおばさん、いや、お婆さんと言ったほうがよいのか──。
「兄ちゃん、ええ娘おるで。10分5000円や」
「……いっいや、すいません。急ぐんで」
お婆さんを見ていたら、顔を覗き込みながら声をかけてきた。アフロヘアーのおじさん、前歯が2、3本がなく息が漏れて何を言っているか少し聞きづらい。ヨレヨレの灰色のポロシャツは汗で滲んでいて、洗濯の生乾き臭がひどい。
「分かった! 3000円でどない?」
純は耳を疑う。3000円で抱ける女って一体──。38年生きてきたが、ある程度の物の価値、相場等は理解しているつもりだ。怪し過ぎて笑けてしまうほどの値段に思わず心の声が漏れる。
「3000円って、食べ放題の焼肉の値段じゃん」
「あんさん、おもろい事言いまんな。ここいらじゃ、800円でたらふく肉食えまっせ」
「800円って、どこかのお店のサービスランチの値段じゃん」
「あんさん、おもろい事言いまんがな。ここいらじゃ、昼飯は350円で吐くほど食えまんがな」
「な訳ねーっ!」
「あんさん、ツッコミのタイミングよろしいなー。最高やわ。これ、うちの店の地図とタダ券。気に入ったからあげるわ」
白髪混じりのアフロヘアーがくれたA4サイズの白い紙には確かに地図が書かれていた。ただ、お宝の場所にドクロの絵だけ書いたような子供騙しのようなものだ。これでは一生辿り着く事はできない地図だ。
「てか、宝探しじゃないんだからっ!」
アフロヘアーは振り返らず、右手を大きく突き上げて商店街の奥へと消えていった。
『……これ、何の券?』
宝探しの地図ともう一枚もらったピンク色の券には、“団地妻とキャッツ愛”と書かれていた。
『キャッツ愛って一体……』