表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大背徳  作者: 稲田心楽
10/10

10


「今はこちらに?」


「いてるよ。パトロールしてるんちゃうか」


「パトロールですか。ちょっと意味が分からない」


「ゲンさん、とりあえず案内したり。にいちゃん困惑してるし」


一体この街はどうなっているのか──逃げるように訪れた場所だが、意外にも肌にあっているかもしれないと感じていた。まだこの街の端っこに触れたに過ぎないが、興味が泉のように湧いてきていた。


「とりあえず、鈴木のところへ行くか」


ゲンさんはくしゃくしゃの千円札を整える事もせず、カウンターに置いて店を出た。純も後を追うようにゲンさんについていく。店の外は言うまでもなく蒸し風呂のようで息がしにくい。先を行くゲンさんの足元をみると、右足にビーチサンダル、左足にくたびれた白のデッキシューズという初めて見るスタイルに困惑はしなかった。むしろ、ゲンさんを追い越してツッコミを入れたいという衝動に駆られた。


「すみません。ちょっとストップ!」


「何や若旦那」


振り返ったゲンさんを見て微かな記憶が蘇る。確か、今飛ぶ鳥を落とす勢いでテレビ番組のMCをつとめる“江古田六郎”が漫才師の時に組んでいた相方の“前田源太”ではないかと──。


「いっいや、ちょっとツッコミを入れようとしたんですが」


「何やねん。死ぬほどツッコミやすいやろが。入門編やぞ」


「それは分かっているんですが……」


聞いてはいけない気がした。何故なら、生きていてこれほど分かりやすい対比に出会う事など稀だからだ。だが、聞かない事には前に進めないような気がした。


「間違っていたらすいません」


「間違ってたら罰金な」


ゲンさんはビーチサンダルとデッキシューズを入れ替えて履き出していた。この人は根っからのお笑い馬鹿なんだろう。それなのに、どうしてこんな所にいるのか──。


「前田源太さんですよね? あの漫才コンビの」


「せやで。あんさん、物覚えよろしいな」


あっけらかんとしているゲンさんを見て、この世の果てにいたような、コールタールの川を裸で渡るようなそんな生き地獄から一筋の光が見えた。


「ゲンさん、大変すね」


「何が大変や。わいは今ノッてるんや。久々にな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ