表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/182

陰謀の経緯

第98章

 一方のアルフォンソ。

 ヴァティカン宮が見えてくるところまで一気に馬を飛ばしてやっと止まりました。後ろを振り返り追手が来ないことを何度も確認してから奪った荷物を開け、愕然とします。

 「これは・・・今朝渡されたパンの包みではないか・・・。」

 極度の緊張と興奮と激しい運動で、肩で息をし、汗だく状態になっていた身体が一気に凍っていくのがわかしました。

 

 アルフォンソは当初は穏便に室内で受け取りを行うつもりでいました。しかし修道士のふりをした男の殺気だった目を見て、疑心暗鬼になり、きっと素直に荷物を渡してもらえないだろう、と思い込んでしまったのです。

 「多分、強盗か何かだろう。易々と私に手渡すとは思えない。法外な金銭を要求されるか、この剣と交換しろと言われるか、下手したら命を狙われるかもしれない・・・。もしかして最初から私は消されることになっているかもしれない。トゥールーズ大司教からしたら、私の存在はそもそも邪魔のはず。ついでに口封じを考えたのかもしれない・・・。」

 さまざまな疑念がわき上がってきたアルフォンソは軽率にも、相手を脅して問い詰めようと、思わず剣を振りかざしてしまったのです。

 そこに受けとる予定の荷物が目の前に現れたため、動揺し、あわててそれをつかみとり、そのまま逃げ帰ってきてしまったのでした。


 任務を失敗したということを悟ったとき、アルフォンソ神父は軽くパニックになってしまったのです。

 「このままでは帰れない。自分の失敗が、エレノアやフィリップの立場や命までも危うくしかねない。」

 動揺したアルフォンソ神父は、トゥールーズ大司教からの追求を一時的でも逃れて、今後の対策を考えるために一人きりになりたい強く思ったのです。

 ーどこか、誰から気づかれずに落ち着いて考えられる場所・・・。そうだ、あの隠し部屋、あそこなら誰もこないし、しばらく一人きりでいられるはず・・・。ー

 汗だくの疲れた身体を引きづって、何とか誰からも気づかれることなく秘密の隠し部屋にやってきたアルフォンソは、そのままその部屋にどさりと座り込んでしまいました。


 そして、昼なお暗い隠し部屋に座ったまま、アルフォンソは急激な運動と極度の心労が重なったのでしょう、そのままそこで、心筋梗塞の発作に襲われ、そこで息を引き取ってしまったのです。


 ヴァティカン内で、最初にアルフォンソ神父の不在に気がついたのは、レオナルドでした。夕方までには宝剣を宝物庫に戻すから、と言われて待っていたのに、夜になっても現れなかったからです。その日のうちに、レオナルドは秘書館長にアルフォンソ神父の不在を報告しようと秘書館長付の若い司祭に取り次ぎを依頼しました。

 しかしその、秘書館長は多忙の上、ある晩餐会に出席中だったため、その情報が秘書館長に届くことはなかったのです。とはいえ、すぐ捜索が始まっていたとしても、隠し部屋の存在と場所を知っていたのエドモンとアルフォンソだけだったので、見つけることはできなかったでしょう。

 

 「申し訳ありません。現在秘書館長殿は、法王と数名の枢機卿の皆様との内密の晩餐の席にご臨席で、邪魔ができない状態なのです。明日朝一番にお伝えするようにいたします。確かアルフォンソ神父は教会軍に同行するようなお方、お体も丈夫と伺っておりますし、日暮れ頃から突然かなり激しい風雨という天候だったため、どこかで雨宿りして翌朝戻ってくるおつもりなのではないでしょうか?」

 「ええ、私もそうかもしれないとは思っておりますが・・。わかりました。」


 その後、アルフォンソが行方不明のままとなってしまったことにずっと責任の一旦を感じていたレオナルドは、このときの秘書館長付の若い司祭との会話をずっと覚えていましたが、会話の相手だったフィリップは多忙だったせいか、このことをすっかり忘れてしまっていたのでした。

 

 ヴァティカン内で、最初にアルフォンソ神父の失踪を聞いて動揺したのはジェノヴァ出身の枢機卿でした。法王や他の枢機卿との晩餐会終了後にアルフォンソ神父と会って、受け取った品物を受け取る手筈だったのが、いつまでたっても現れなかったからです。


 ジェノヴァの枢機卿が動揺したのはもちろんアルフォンソ神父の生存を心配したからではなく、アルフォンソ神父の失踪がフォーフェンバッハかトゥールーズ大司教のどちらかの計略かもしれないという疑念を覚えたからです。アルフォンソ神父が誰かに捕縛されたとか、殺されたという可能性がないことを確認してから、トゥールーズまで早馬を飛ばして状況を報告し、フォーフェンバッハに対しては、聞かれるまではだんまりを決め込むことにしました。


 フォーフェンバッハは、配送手配を指示した部下から特に報告がなかったため、偽造印璽はヴァティカンのジェノヴァの司教の手元に届いたと信じ込んでいましたが、急報を受けたトゥールーズ大司教はジェノヴァの枢機卿に「ただ状況を静観せよ。動きがあったらすぐ報告を」との指示をジェノヴァ司教に出し、特に行動を起こしませんでした。偽造印璽が紛失しようと、どこかで発見されて悪用されようと、困るのは神聖ローマ帝国皇帝側だけの問題で、アルフォンソ神父がそれに関わっていたという事が暴露されたとしても、自分は表むき全く関係ない立場にいたからです。


 そしてそのまま、月日は流れ、神聖ローマ皇帝軍がヴァティカン宮内に侵攻するという事態になったとき、フォーフェンバッハは慌ててジェノヴァの枢機卿に偽造印璽の所在について問いただそうとしたところ、すでに皇帝軍を恐れてヴァティカンから逃亡したジェノヴァの司教と連絡がとれず、彼は逃亡先でペストにかかり、そのまま亡くなってしまいました。フォーフェンバッハにとっては「印璽はヴァティカン内のどこかにあるはず」という、その所在がうやむやのままの状態になってしまったのです。その探索のために、ジェノヴァの枢機卿の代わりの存在として、フィリップは利用されたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ