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アルフォンソ神父の半生

第86章

 ロバートとジュリエットがヴァティカンを去ってすぐ、フィリップはレオナルドと改めてアルフォンソ神父の宝剣について詳細に話し合う機会を持ちました。そこでレオナルドがそれまでアルフォンソ神父から聞いてきたこと、今回精力的に調べてわかった以下のことをまとめてフィリップに伝えました。



 アルフォンソ神父はシチリアのある貴族家の出身で、次男であったため幼いうちから僧籍にはいることが決まっていた。10代の頃にはナポリに行き、フェデリコⅡ世大学で神学とともに医術も学んでいた。その頃、家督を継ぐはずの兄がサラセン人の海賊に誘拐され身代金を請求されたが、おそらく財政が苦しい状況だったためか、要求された金額を期日内に用意することができず、誘拐された長男は殺されてしまい、ほぼ同時期に母親も亡くなった。


 ここで本来ならば次男であったアルフォンソが家督を継ぐはずなので、あの「当主の証である宝剣」はアルフォンソに譲渡されたと思われるが、何故だが、彼はそのままシチリアを出て各地を放浪し、シトー派の修道院に入り、後に司祭に叙階された。


 何故彼が家督を継がなかったかは定かではないが、しばらくしてアルフォンソの父親が若い婦人と再婚していることから、義母との折り合いが悪かったのかもしれない。いずれにせよ、もともとの予定通り、アルフォンソは神父となった。彼が僧職に入ってしまったため、宝剣はアルフォンソの手元にあったが、家督は後妻との間に生まれた息子が継ぐことになったはずである。


 フィリップの祖母にあたると思われる女性がどのような素性で、アルフォンソといつどこで知り合ったかは不明だが、修道院に入る前のことと予想される。おそらく妊娠がわかってから彼女と子どもを匿うために、ローマ郊外に家を建て、生活を保障した。アルフォンソ神父の性格上、見捨てるなどということは出来なかったのだろう。二人を養うために手元にあった「当主の証の宝剣」を担保に、当時ヴェネツィアの元老院議員でもあったフォスカリ家の当主から金を借りた。どのような経緯でフォスカリ氏と知己があったのかまではわからなかったが、すぐに大金を用立てたことからも、何か深い親交があったのと推測される。


 何故担保である宝剣がフォスカリ家に保管されていなかったのも謎だが、何か口頭で取り決めがあったのかもしれない。貸借契約書の写しには、宝剣の保管場所については何も書かれていなかった。

 

 今回、行方不明となっていたアルフォンソ神父のご遺体が宝剣とともに発見されたことで、レオナルドが宝剣の返還のことについて、シチリアのアルフォンソの実家、ベレッツァ家にコンタクトしてもなかなか返信が来ず、アルフォンソの義母の嫡男からではなく、庶出の息子からの返答がきたのは、当主であったはずの嫡男が勘当されていたからであったとわかった。


 アルフォンソより20歳近く若かったはずの義母の産んだ息子は、若くしてロードス島騎士団に入隊し、入隊の際に、全資産を騎士団に献上しようとしたため、激怒した父親から絶縁されたようである。テンプル騎士団への入隊と違い、そのような必要はなかったのに、なぜそのような行動に出たのか理由は定かではないが、こうして家督を継いでいたはずのアルフォンソの腹違いの弟も除外となってしまった。


 老齢のアルフォンソの父が探したのか、それとも向こうからベレッツァ家を訪ねてきたのかは定かではないが、それからしばらくたって、アルフォンソがナポリのフェデリコⅡ世大学で学んでいたとき婚約していたと主張する女性がベレッツァ家を訪ねてきた。アルフォンソの子どもだという青年を連れて。

 かなりの高齢になっていたアルフォンソの父は、3人の嫡男をすべて失い、その女性の言葉を信じるしかなかったのかもしれない。かなり年老いたアルフォンソの父は、その青年を養子として家に入れたのだった。


 「猊下、このような経緯で、宝剣の返還に関しての交渉相手は、この養子となった後、ベレッツァ家を継いだ現当主のアルフレッドという人物になります。貸借契約書が有効である限りは、現在の宝剣の所有権は、昨晩お話したように、キプロスにあるヴェネツィア商館長の任にあるマリオ・フォスカリ氏となります。借金の弁済については本来は両者協議ということになりますが、教皇庁としても、借金の担保としたのは神父となった後のアルフォンソですし、その借金で建てられた館を現在司教館として使用していることもありますので、半分程度なら肩代わりしても良いのではないでしょうか?」


 「個人的にも私の義理の叔父にあたるアルフレッド・ベレッツァ殿に、宝剣はお返ししたい。アルフレッド・ベレッツァ殿は先代からどこまで話を聞いていたかわからないが、宝剣の存在を知っていただろう。昨日のロバートやジュリエットの話からもマリオ・フォスカリ殿が、担保にすぎない宝剣の所持を強く主張するとは思えないし、フォスカリ殿の父上が担保であるはずの宝剣をそのままアルフォンソ神父に所持させていたことからも、何か金銭に替えられない恩義をアルフォンソ神父から受けていたのではないかという気がする。」


 「よろしければ猊下、私にこの件の処理を一任させていただけますでしょうか。私としましても見習いの頃からアルフォンソ神父に大変お世話になった恩もございます。宝剣の返還というだけではございません。おそらくアルフレッド・ベレッツァ殿は、自分が父親から捨てられたのだと憎んでいると思われますが、アルフォンソ神父が人間的に素晴らしい人物だったとお伝えして、その誤解を解きたいのです。」


 「とりあえずアルフレッド・ベレッツァ殿には、基本的にそちらに宝剣を返還できるようにしたいとだけはお伝えしてくれ。こちらで貸し手と交渉すると。交渉はそなたに一任する。進展があれば都度報告してくれ。 フォスカリ殿との協議だが、彼がまた祖国に一時帰国する機会がすぐ訪れればいいのだか。」


 「かしこまりました。確かにキプロスの情勢がおかしな事にならないと良いのですが。」


 「スルタンの弟の挙動だな。ヴェネツィア大使からも聞いている。後継者争いは落ち着いたと思っていたが、まだくすぶっているようだな。キプロス王がスルタンへの申し開きにコンスタンチノープルに向かうとか。さてものジェローム王も、難しい舵取りを迫られているだろう。」

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