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ジュリエットの望み

第82章

 ジャンカルロの屋敷で、ジュリエットはジャンカルロと妻ソフィー、そして息子のフレデリックから大歓迎を受けました。さすがにフレデリックのフィアンセのシャルロット嬢はロバート様に会わせる顔がない、と同席しませんでしたが、興味津々のフレデリックからは二人の馴れそめを根掘り葉掘り聞かれ、さすがにジェローム王とのことは匿秘したいロバートとジュリエットはヴァティカンを出会いの場として、あの宝物庫での事件を多少脚色して披露すると、目を輝かせて聞き入っていました。


  「私も一度ヴァティカンに行ってみたいものだな。古代ローマからの美術品もいっぱいあるというし、フィリップ叔父が法王様でいらっしゃるうちに一度遊びに伺ってみよう! そうだ、結婚前に二人はローマ郊外にあるエレノアおばあさまのお墓参りに行く予定だったね。私も一緒に行って、ついでにヴァティカンまで足を伸ばそうかな。」

 「フレデリック、いい加減にしないと。あなたはまずは来月の婚礼の準備があるでしょ。」

 「そうだった。ぜひ参列してくれないかな。あ、よいことを思いついたぞ!二組合同の結婚式はどうだろう! 招待客の親族もかぶるだろうから、一度に済んで効率良いんじゃないかな。」


 父親のジャンカルロとも母親のソフィーとも全く似ていない自由奔放なフレデリックの言動に、ロバートはすっかり面食らってしまいました。ジュリエットも目を丸くして従兄弟を見つめています。

 「だめよ、フレデリック。ジュリエットの婚礼衣装とか、これからいろいろ用意する必要があるのよ。ねえ、ジュリエット、一緒にそろえましょうね。こんなかわいらしい娘の花嫁衣装を用意できるなんてとても楽しみ。嬉しいわ。」

 「ありがとうございます。私も、どのような用意をしてよいか全くわからず、ソフィー様に頼ることができて、とても安心いたしました。」

 「ジュリエット、あなたはエレノア様の面差しを一番受け継いでいると思うわ。きっととてもおしとやかで気品のある美しい花嫁になるわね。ところで、ジャンカルロも私もあなたの親としてひとつ確認したいことがあるのだけれど」

 「はい、何でございましょう?」

 「フレデリック、もうしわけないけれど、あなたは席を外してくれるかしら?」

 「え?何、気になるな。」

 「フレデリック!」

 「はいはい父上。では私はここで、街へ修理に出しておいた馬具を取りに行ってきます。

 これにて失礼、ロバート殿、ジュリエット嬢」


 フレデリックが退室したのを確認してから、ソフィーがさらに優しくジュリエットに問いかけました。

 「この婚約のこと、キプロス王にはお知らせしたのかしら?」

 「はい、こちらに伺う前に手紙を書いて、マリアンヌ様に託しました。キプロスのヴェネツィア商館経由で届いていただくことになっております。」

 「ジュリエット、あなたはかつてサンマルコ共和国の養女という身分でキプロス王の妻として輿入れしたが、公式には処刑された身の上でありながら、帰国して生きていると知っている人間は、ジェローム王のほかに、リッカルド殿とマリアンヌ様とロバート殿だけと考えていいのだね。」

このジャンカルロからの質問にはロバートが答えました。

 「あと、アラン殿です。カルロス殿のご長男の。彼がマリアンヌとともにキプロスに迎えにきたのです。あと、もしかしたらキプロスのヴェネツィア商館長のマリオ・フォスカリ殿も事情を理解していらっしゃると思いますが、彼はリッカルド殿の指揮下にある官吏なので、口を割ることはないかと存じます。」

 「なるほど、アランか。軽率な事をすることはないと思うが、念のためカルロスに念押ししておこう。」


 ジャンカルロの屋敷に数日間滞在したあと、ロバートはジュリエットを正式に紹介するために義母マレーネの住む自分の屋敷へと向かうことになりましたが、マレーネがどう反応するかわからないと不安を隠せないジュリエットの様子を見て、マレーネの姉であるソフィーが同行してくれることになりました。

 「大丈夫よ、ジュリエット。マレーネは亡き宰相殿の治療師として、あなたに看護を任せていたのでしょう? 」

 「でも突然、大切なご子息の婚約者として登場するなんて、お認めにならないかもしれません。。。」

「私の娘ということで紹介するのだから、マレーネも文句のつけようがないわ。あなたの出自については、私が上手く話すから安心なさって。それにロバート殿がマレーネの誕生日プレゼントを用意されたのでしょう?」

 「ええ、ローマで、ジュリエットの婚約指輪と一緒にネックレスを作らせました。我が家の紋章も入ったものです。義母も父を亡くして、最近はあまり元気がなくて。カサンドラ様との行き来や手紙のやりとりも最近は途絶えてしまっているようで、私も心配です。」

 「私からも、マリアンヌ殿から勧められた美容クリームの新作を持って参りましたが、喜んでいただけるかどうか・・・」

 「あら、ジュリエット、それ、マレーネは大喜びするわ!」


 ソフィーの予想通り、マレーネも最初は驚いたものの、ジュリエットの控えめで穏やかな物腰に好感を抱き、ソフィーの説明に安心し、さらのロバートからの素晴らしいネックレスと新作美容クリームのプレゼントに「自分は大切にされている」と感じて、すっかり上機嫌になりました。


 「マリアンヌ殿のお弟子でもあったのよね。私のためにこれからもまたクリームを調合してくださるのかしら?」

 「もちろんです、マレーネ様のためなら喜んでいくらでも」

これでマレーネからの承諾は完璧なものとなったのでした。


 無事周りからの婚約の祝福を受け、結婚への準備が具体的に始まると、ジュリエットはどうしても父であるフィリップからも祝福されたいという気持ちがおさえられなくなってきてしまいました。

 「ロバート、何とかフィリップ様に結婚式に出ていただくことは出来ないでしょうか?」

 「私にとっても、フィリップ殿は母の願いを叶えてくれた恩人だ。せひ参列して欲しいのだが、マリア殿がどう思われるか。それにフィリップ殿もご身分から、なかなか外出も難しいだろうし。」

 「そうですよね、ごめんなさいロバート、わがままを言って。」

 「気持ちが落ち着かないんだね。マレーネ様の快諾も得られたことだし、エレノア様の墓前に報告に行こうか。そのままヴァティカンに行けばフィリップ殿に正式な婚約をご報告することも出来るだろう。」


 エレノアの墓参りに出発する直前に、マリアンヌからジュリエットあての手紙が届きました。ジェロームへの手紙を商館長のフォスカリ殿に手渡したこと、リッカルドの状態は落ち着いているが、まだしばらく看護を続ける予定だということ、そして不思議な夢を見たという実務的なマリアンヌにしては珍しいことが書かれていました。


【あなたがた二人がここを立ってから3週間後くらいかしら、私、亡きエレノア様の夢を3日続けて見たの。とても居心地のよい四阿で、楽しくお話しているのよ。内容は良く覚えてないのだけれど、もうお一人、上品そうなご婦人と三人で指輪の話をしていた気がするわ。何かとても穏やかで満たされた気分だったわ。】


 この夢の話をジュリエットはエレノアの墓に向かう途上で、ロバートに打ち明けると、彼は真剣な表情で

 「もしかしたら、そのもう一人というのは、私の母かもしれないな。私がフィリップ殿と初めてお会いしたとき、私は母がフィリップ殿に託した私宛の指輪と手紙を渡され、ショックで気を失ってしまった話はジュリエット、君にしたと思うけれど、あれがきっかけで私はフォーフェンバッハの悪事を暴こうとキプロスまで行ったんだ。何だか母がエレノア様と天国で私たち二人を引き合わせよう画策していたのかもしれない。」

と言われて、ジュリエットは何かよいことが起こる予感がしたのです。


 マリアンヌに教えてもらっていた、エレノアの墓所は、かつてエレノアの母が住んでいたというローマ郊外の丘陵地帯にある街道沿いの小さな村の墓地でした。誰かが定期的に通っているのか、綺麗に掃除されていました。そして二人が持ってきた花をかざろうとしたときに、背後から聞き慣れた声がしたのです。

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