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不安定な婚約

第70章

 ヴェネツィアに帰ってきたマリアンヌの耳にも、ロバートの婚約という情報が入ってきました。

 「そう、ロバートが。皇帝陛下からのお話なら、断れないわね。」

 「まだ公式に発表されたわけではないが、おそらく皇帝はロバートを近臣の一人として囲っておこうというつもりなのだろう。」

 「さすがの情報網ね、リッカルド。」

 「はは、大口取引先の、しかもその取引の担当者殿のご婚約だ。特に情報収集しておくべきなのは当然だろう。」


 リッカルドの治療中の会話で、知ったロバートの婚約話に、マリアンヌはジュリエットのことを考えて,思わず「このほうがジュリエットも良かったのかもしれないわ。」とつぶやいてしまいました。

 「気になっているんだね。ジュリエットのことが。彼女は上手くやっていると言っていなかったか?」

 「ええ、お仕事に関してはね。フィリップにはとても気に入られているし、本人もとてもやりがいを感じているようだし。ただ・・」

 「ロバート殿と何かあったのかな?」

 「いえ、何かある手前という状態かしら。ロバートは、キプロスからの帰国のときはジェロームから頼まれてジュリエットを無事に送り届けることだけを考えて親切に接していたのだけれど、宰相殿のお屋敷で看護をしていた頃から、二人は親密になったようでした。私がカルロスの手当のために留守にしている間に、ロバートは急速にジュリエットに惹かれていったと思います。ロバートからジュリエットのことを真剣に思っていると告白されたのだけれど、ジュリエットのほうはまだ自分のまだ気持ちが分からない、という状態だったわ。」

 「真剣というのは、ロバート殿は結婚も考えていると?」

 「ええ、はっきり本人がそう言うのを聞きました。けれど、ジュリエットが仮にロバートのことを憎からず思っていたとしても、今の彼女の身分や立場では、とても告白を受けられないと考えたでしょう。ジュリエットは感情だけで動くような人間ではないので。」

 「ああ、そういうところもエレノア様と似ている。」

 「そうね、それに少女から大人になってきて、雰囲気や容貌もエレノア様に似てきた気がするわ。」

 「まだキプロス王のことが忘れられないのだろうか? 先日、キプロスからの錫の荷の第一便が届いたのだが、、その時一緒にキプロス王からジュリエットへの贈り物が届いたのだよ。フォスカリが、自ら手荷物で運んできた。すぐにヴァティカン駐在の大使のもとに届けさせたが、外箱を見た限りでは、宝飾品か何かのようだった。」

 「そういえば、素晴らしい真珠が手に入ったとかで、ジェロームが16歳のお祝いのプレゼントを用意していると話していたわ。急ぎジュリエットが帰国することになったので、間に合わなかったのね。確かにジュリエットはジェロームのことは敬愛していると思います。ただ、それはどちらかといえば父親に対する思慕の気持ちなのではないかと。」


 治療の手をとめたまま夢中になって話すマリアンヌの姿に、リッカルドは自分の計画を話してみようかと思ったのでした。

 「ロバート殿はジュリエットを諦めたのだろうか?」

 「どうかしら。でも前にも言ったように、正妻ではなく愛妾という立場で迎えようなんて考えていたら、私はもちろんマリア様も、天国のエレノア様も許しませんからね。」

 「わかっているよ。実はもうひとつ、ちょっとした情報が入ってきているんだが・・・。」

 「え?」

 「これは、ジャンカルロ殿も係わってくる問題だし、慎重に事をすすめないといけないと考えている。何より、当のジュリエットがロバート殿と一緒になることを望んでいるなら、ということが大前提なのだが。」

 「是非聞かせて、リッカルド。私が協力できることなら、何でもするわ。」

 「では、マリアンヌ、まず治療を済ませてくれないか。」

 その晩、リッカルドはマリアンヌと遅くまで話し合ったのでした。


 一方、ロバートは、キプロスとの錫の取引が無事始まったことで、今度は法王就任後のフィリップの動向を探る目的で、神聖ローマ帝国特使として派遣されることになりました。ロバートとフィリップと知り合いだと知った皇帝が、ちょうど良いと機会だと、急遽任命したのです。


 そしてロバートの婚約の公式発表は、ローマから帰国してから改めて、という話となりました。その理由は、婚約内定の相手の父である選帝侯が、ロバートの資質にまだ疑いを抱いていたからでした。ロバートが幼い頃病弱で、馬にも乗れなかったことは当時宮廷内ではかなり噂になっていて、ロバートの評価は低かったのです。さらに正式に宰相から後継者に指名されていなかったことに、果たして娘にふさわしい人物なのかどうかと不信感を抱いていたのでした。

 

 そして後になってわかったことですが、選帝侯の娘自身も、縁談話がきたときにすでに将来の約束を交わし合った相手がいて、正式の婚約発表前に駆け落ちすることまで考えていたのです。


 ジュリエットへの変わらぬ思いと、皇帝陛下の期待を裏切れないという気持ちで、心が落ち着かないままヴァティカン宮にやってきたロバートでしたが、私的な手紙のやりとりを続けていた旧知のフィリップと会えることはむしろ楽しみでした。


 そして、ロバートとジュリエットの再会の瞬間は突然訪れたのです。

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