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フィリップの即位

第66章

 ロードス島の防衛戦は、イスラム側の内部抗争の影響であっけない停戦を迎えることになりましたが、実は同時期、ヴァティカンでも内部抗争に揺れていたのです。そう、お決まりの次期法王選出に係わる内紛でした。いつものように政治的な思惑が入り乱れ、なかなか候補が決まらず、コンクラーベの実施にめどが立たず、混迷していました。


 しかしそのうち、防衛戦が続くなか法王空位が続くのはまずい、つなぎでよいからイスラム側につけ込まれないよう、どこの権力の支援も受けていない、政治的野心のない法王をとりあえずたてよう、という共通認識がヴァティカン宮全体に醸成されていったのです。

 そこで当時、貧しい市井の人々のために新たな会派を作って活動をはじめ「清貧の人」として評判を集めていたフィリップに白羽の矢がたったのでした。


 そのときのフィリップは、枢機卿の位は返上していて、コンクラーベに参加する資格すらありませんでしたが、特例として枢機卿の地位を回復されたので至急ヴァティカンに来てコンクラーベに参加するように、という通達が法王庁から届いたのでした。

 一司祭として、法王庁の命令は無視できず、フィリップがヴァティカンに戻ると、地中海の政治的安定が最優先の経済問題と考えているリッカルドから、ぜひ法王候補になって欲しいとの私信が届きましたが、もちろんそれをフィリップは固辞していました。


 フィリップの気持ちが変化したのは、カルロスの負傷のニュースでした。戦いが長引けば長引くほど死傷者が増えることは明らかです。停戦交渉には、ヴァティカン側は一枚岩になっていなければ不可能です。さらには戦火のさなか、キプロスからジェロームの私信が届き、それには「地中海を平和にするためにも、ぜひフィリップ殿に法王即位していただきたいと。」と書かれていたのでした。

 ここにきてついに、フィリップはコンクラーベの候補となることを受け入れ、当然のことながら1回目の投票ですんなりと選ばれることとなったのです。


 ジュリエットがロバートからの告白を受けた日は、まさにフィリップの法王即位が決まった日だったのです。

 そして、ジュリエットはもちろんその事実を知らずに、マリアンヌに「父に会いたい」ということ訴えたのでした。


 自分の不在中にジュリエットとロバートの関係が急激に変化していたことに気づかなかったマリアンヌは迂闊だったと後悔しつつも、胸の内では、ジュリエットがロバートの妻になれば、それこそマリア様はもちろん、天国のエレノア様も喜んでくれるのではないかと思ったのです。ジュリエットの過去を知った上で、それを受け入れ愛を告白してきたロバート。彼ならジュリエットを幸せにしてくれると思えたのでした。しかし表向きは処刑されたキプロス王の妻。サンマルコ共和国の養女という晴れがましい立場であったジュリエットは、表向きすでに存在していない・・。


 「ロバート、少し二人きりで話したいのだけど、よいかしら?」

 宰相の葬儀が終わり、皇帝への報告を終え、屋敷に戻ってきたロバートにマリアンヌは声をかけました。

 「私も、お話したいところでした。」

 「ジュリエットのことね。」

 「はい。」


 ロバートは素直に、自然とジュリエットへの思慕の念が生まれ、自分の過去も話し、より深く彼女のことを知りたいと思ったこと。すこしずつ彼女の心を開いて、自分の気持ちを受け入れてもらうつもりだったが、皇帝陛下からそれとなく縁談をもちかけられそうになり、慌ててジュリエットに告白して、返事を早急に求めてしまったことをマリアンヌに話したのでした。


 「皇帝陛下からのお話は、正式なものなの?」

 「いえ、会ってみないかという軽い打診を受けたというか。お側で仕えるようになってから、いろいろな話をすることも多いので、その流れから出た会話ではあったのですが。」

 「そう、それでそのお話は進んでいるの?」

 「いえ、皇帝としても宰相の後任選び、停戦後の外交交渉などで忙殺されておりまして、何より私が喪中のこともあり、いまのところは棚上げの状態というか。」


 ロバートの縁談話に、マリアンヌは不安を感じました。

-おそらく、早晩、皇帝陛下からロバートに正式な打診が来るだろう。まだ立場の弱い今のロバートは断れないに違いない。そうなると、どんなにロバートがジュリエットを愛していても正妻の地位ではなく、愛妾の立場になってしまう。それはマリア様もエレノア様も私も受け入れたくはない。そもそもジュリエット自身、まだロバートを愛しているという自覚はない・・・。-

 

 「ロバート、私とジュリエットはヴェネツィアに戻るわ。ここでの役割は終えたし、元首殿にご報告とご挨拶に伺わなければならないし。」

 「そうですね。私もジュリエット様のお気持ちも考えず、性急なことをしてしまいました。ただ、この気持ちだけは真剣です。それだけはマリアンヌ、分かってください。ジュリエットを諦めるつもりはありません。」


 マリアンヌはある決意を固めて、ジュリエットとともにヴェネツィアへと向かったのでした。


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