表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/184

つかの間の対面

第62章

 マリアンヌとジュリエットは、とりあえず二人してマリアにもとに行くということにしました。


 「リッカルド、あなたとしてはジュリエットを母であるマリアと一緒の屋敷で過ごすことができれば一番確実に安全に保護できると考えているでしょう? でも、ジュリエットはもう一人前の大人になりつつあります。そのまま滞在するのか、それとも別の生き方を見つけるのか、彼女に考える機会を与えてあげてくださらないかしら?」

 「ジュリエットは素直で従順でとてもよい娘だ。ほんの1週間だが、看護を受けてよく分かった。しかも年齢のわりに相手を気遣って言動をコントロールもできる。ただ、マリアンヌ、あなたのように、強い意志のもとに自分の人生を切り開いていくようなタイプではない気がするのだが。」

 「でも自分の意思がないわけじゃないわ。慎重な性格なのよ。それに実の母親とはいえ、一度も一緒に過ごしたことのない相手と、同じ屋敷にずっと一緒というのもつらいかもしれない。共通の思い出もないし。それにマリア様は、彼女を修道院に預けてしまった、見捨ててしまったという罪悪感、夫を裏切っていたという意識にまだとらわれているの。」

 「でも、血つながった実の親子だ。会えば親子の情が湧くかも知れない。何より、彼女の身の安全が重要だ。」

 「分かっております。まずはジュリエットを連れて別荘のマリア様のところに二人で伺います。元気なジュリエットに会えれば、マリア様も安心なさるでしょうし。しばらく一緒に過ごしていただいて様子をみましょう。私はそのまま、帝国の宰相殿のところに向かいます。」

 「やはりなにかあったのか?ロバート殿から早馬の手紙がきていたようだったが。」

 「元首殿の情報網ではもうご存じでしょうけれど、やはり宰相殿の容態がかなり重篤らしく、最後の看護をしてほしいと頼まれたの。今回のキプロスからの脱出作戦の恩義もあるから、きちんと対応して差し上げないと。」

 「で、場合によっては、そこへジュリエットも連れて行きたいということか?」

 「あなたは本当に何でもお見通しね、リッカルド。でも本人がどうしても望んだ場合ね。彼女が選択する道を残しておいてあげたいの。今回の事情をすべて理解して協力してくれたロバート殿なら信用できるし。」

 

 しばらく考え込んでいたリッカルドでしたが、状況の報告をまめにすることを約束させて、二人を送り出したのでした。リッカルドとしては、一緒に別荘に向かいたかったのですが、その頃はまだロードス島防衛戦が続き、しかもちょうどカルロスが負傷したという情報と、若きスルタンの弟が兄の不在中に謀反を起こそうとしているという情報が飛び込んできた時だったのです。連日、十二人委員会が開かれ、リッカルドは元首宮から離れることはできませんでした。


 ブレンダ運河ぞいのリッカルドの別荘にマリアンヌとジュリエットが到着したとき、マリアは屋敷の建物の前の、運河に臨む庭園に一人佇ずんでいました。

 「まあ、マリア様、霧雨が降り始めております。すぐお屋敷の中にお入りください。お風邪を召してしまったら大変です。」

 そう言いながら慌てて近づくマリアンヌと、後ろから続くジュリエットでしたが、マリアはただジュリエットのほうをじっと見つめながら「ごめんなさい、ジュリエット」と辛そうにつぶやいたまま、その場に倒れ込んでしまいました。これが、母と娘のはじめての対面シーンだったのです。


 マリアが軽い風邪症状だったこともあり、マリアンヌはすぐ神聖ローマ帝国の宰相のともへは出発せず、数日間、ジュリエットと一緒にマリア看病することにしました。

 風邪はすぐ治ったのですが、精神的なダメージがなかなか癒える様子がないことに、マリアンヌもジュリエットも困惑していました。


 「毎日私と顔を合わすと、涙ぐんでごめんなさいとおっしゃるのです。私の存在がかえって、マリア様に過去を思い出させて、苦しめている気がします。私、ここにいて良いのでしょうか?」

 そう問いかけるジュリットに、マリアンヌも悩んでしまいました。


 ジュリエットは母であるマリアに会っても、残念ながら親子の情というものは湧いてこないようだわ。ジュリエットにとって「マリア様」であって「お母様」ではない。予想はできたことだけど。

このままジュリエットがマリアに側で暮らすと、かえってマリアは罪の意識にさいなまれて、そのことに気づいてしまったジュリエットも苦しむことになってしまう。

 一緒に過ごせば、徐々にお互い打ち解けていくかもしれないと思ってはいたけれど、娘の無事を確認できたのなら、しばらく離れて暮らしていたほうが、親子にとって精神安定上良いのかもしれない。

 

 別荘で一週間ほどマリアの看病をしたあと、マリアンヌはリッカルドあてに状況説明およびジュリエットを一緒に連れて行く許可を求める手紙と、ロバートあてにジュリエットとともに向かうことと、迎えの馬の手配を求めた手紙を書いたのでした。


 マリアンヌの手紙を受け取ったリッカルドからは「承諾した。引き続き報告を」という簡単な返信が、ロバートからは返信より先に、本人が二人のところに迎えにやってきたのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ