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ジュリエットへの告白

第61章

 「ね、ジュリエット、自分の生みの母親に会ってみない?」


 マリアが落ち着いたので、ブレンダ運河沿いの別荘から元首宮に戻ってきたマリアンヌは、リッカルドの容態が想像以上に快復したのを見て、治療と看護の適切さを褒めたあと、ジュリエットに打診してみたのでした。


 「それは、どうでしょう? 私を産んだ方も私に会いたいと思われているのでしょうか?私にとっての家族はマリアンヌ様だけだったので。今さら私を手放した母親に会っても、何を話したらよいのかわかりません。」

 「ジュリエット、あなたの母親はあなたを手放したかったわけではないのよ。ずっとあなたのことを心配していた。あなたが処刑されたと聞いて半狂乱になってしまったくらい。それにね、何よりあなたは愛し合って生まれた子どもなの。でも当時の事情でどうしてもあなたを手元で育てることができなかった。身を引き裂かれる思いだったと思う。あなたを修道院に預けることになっても、心配で、修道院への多額の寄付もされていたのよ。」

 「でも、一度も会いにきてはくださらなかった・・・。」

 「いえ、こっそりと何度か会いに来てくれていたのよ。あなたには気づかれないように、遠くからそっと見ていたの。修道院の中庭で遊んでいたときとか、クリスマスの聖体行列のときとか。あと、ほら、お友達の一人の婚約のお祝い会が食堂であったでしょう? あのときの来賓の中に、実はあなたのお母様が紛れ込んでいたのよ。もちろんあなたの母親とは名乗れなかったけど。」

 「でも、今さら会いたいなんて、なぜ?」

 「ごめんなさい、ジュリエット。あなたの気持ちを考えないで、突然こんな提案をして。悪かったわ。ただ、状況が変わって会えるようになったというか。あなたも会えるものなら会いたいはずだと思い込んでいたわ。ごめんなさい。」

 「私こそ、いろいろ考えてくださっているのに、ごめんなさい。この1年ちょっとでいろいろな事が起こって、気持ちの整理がつかなくて。これからどうしようか、決められなくて。」

 「そうね、やはり、その前にあなたに全てを話すわ。あなたの父親が誰で、そもそもあなたの両親の出会いはどういうものだったのか。本当はキプロスに行く前に話すべきだったのかもしれなかったけれど、あのときは過去にとらわれて欲しくなかったの。新天地で幸せになってほしくて。。」

 「マリアンヌ様、ぜひ聞かせてください。私の両親について。私、自分のルーツを知りたいです。そうしたら私、自分がこれからどうずべきか、考えられる気がします。」


 マリアンヌはついに、ジュリエットに出生の秘密を本人に話しました。祖母にあたるエレノアの半生から話し、フィリップとマリアがどういう状況で出会ったのか、なぜ彼女をキプロス王との婚姻を仕組んだのか。

 「あなたのことは最初、エレノア様とマリア様と私の三人だけの秘密だったの。それが先日、あなたの処刑のニュースを聞き、ついにマリア様か夫であるリッカルド殿に告白したわ。リッカルド殿は実はあなたがマリア様の子だということはご存じだったみたい。でも父親が誰であるかは、今でもマリア様と私しか知らないはず。そして、あなたの父、フィリップ殿は今でもご自分の娘がいることをご存じないの。」


 マリアンヌの長い話を、ずっとおとなしく聞いていたジュリエットでしたが、マリアンヌが話し終わっても、しばらくの間、黙ったままでした。そして遠くを見つめるような目で、独り言のようにつぶやきました。

 「私、母親ってマリアンヌ様のような存在だと、ずっと思ってきました。そしてキプロスでジェローム様お会いして、ああ、こういう方が父であったならって思っていました。私、父親という存在にずっと憧れていたんです。彼も私を妻ではなく、娘のように導いてくださったから。故郷を離れて寂しいだろうって。自分も故郷を捨てた身だからよくわかるって。そうおっしゃって、キプロスで、私が故郷と同じように心地よく暮らせるようにって、薬草園を作ってくださった。マリアンヌ様がジェローム様と夫婦になられたら、私、喜んでその娘になるのに・・・。」

「ジュリエット、あなた、そんなこと考えていたの?」


 そこへ、突然、リッカルドの召使いの一人がドアをノックして入ってきました。

 「失礼いたします。こちらを至急マリアンヌ様に届けよという主人の命がございまして」


 それは、ロバートからの手紙でした。急ぎというので、マリアンヌはその場で開封して読んだところ、宰相のところに看護に来てほしいというお願いが書かれていたのです。もうあまり快復の見込みはないだろう。せめて苦しまないように、気持ちよく最後を過ごさせてあげたい、というロバートの切実な願い

が書かれてあったのでした。


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