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後悔より対策を

第44章

 ジュリエットが13歳となり、いよいよキプロス王のもとへお輿入れする日がやってきました。婚礼の祭典があるわけではなく、ジュリエットはキプロス島のジェロームの住む館に入るだけです。ただヴェネツィア出発の際は帝国の養女の輿入れとして、盛大な祭礼が開催されました。

 最後の式典であるサンマルコ寺院での壮麗なミサの後、元首リッカルドに先導され、夕陽のなか、キプロス島に向かうヴェネツィアの大艦隊の旗艦に乗り込むジュリエットの姿を、マリアンヌはサンマルコ広場に面した元首宮殿テラスから眺めていました。

 私のかわいいジュリエット。エレノア様の強さと聡明さ、そしてフィリップ殿の純粋さ、マリア殿の美しさと謙虚さを受け継いたあなたは、きっと異国の地でも自分を見失わずに生きていくはず。


 そしてジェロームは、私に直接、彼女を大切にすると、命の恩人である私の信頼を決して裏切らないと言ってくれた。

でも・・・・。


 後悔はないものの、マリアンヌは「これで肩の荷がおりた」とは全く思っていませんでした。

ジェロームはジュリエットがフィリップの息子だということを知っているのは確かのよう。どこから情報が漏れたのか。可能性としてはエレノア様の遺言。あれはジャンカルロに託したはず。おそらく彼は自分の母も遺言を読んでいるのでしょう。

 でもジャンカルロ殿とジェロームには接点はないはず。


 私が下手にジャンカルロに問いだたすと、私がエレノア様の遺言の内容を知っていながら、なぜジュリエットの父がフィリップだと知って黙っていたのか、なぜジュリエットをキプロス王のものに嫁がせたのかと問い詰められてしまう。


 リッカルドはまだ知らないはずだけど、ジェロームとジャンカルロが知っているなら、いつまでも隠しおおせるものではない。そしてフィリップにも。


 あのときは最善の策だと思っていたのに、状況の変化は予想外だった。自分の考えは浅はかだったかもしれない。やはり一度、ジャンカルロ殿には全てを打ち明けようか。彼はとてもバランス感覚のある人物だ。今までの言動からもリッカルドと同じくらいの信頼がおける。それに、あの夜、ジェロームが囁いたあの言葉が現実になったら、助けを求める先はジャンカルロ殿しか思いつかない。


【もしこの先、わがキプロスと帝国が戦線布告となった場合、ジュリエットは人質になってしまうだろう。交戦状態になる前に人質となってしまうならまだしも、見せしめのためにスルタンから処刑を命じられることも十分ありえる。そうならないために、状況次第ではいち早くジュリエットを逃がしそちらに送り届ける。おそらくサンマルコ共和国は中立を維持するために、彼女を見殺しにするしかないだろう。だから元首殿には内緒で君が彼女の身を引き取りにきてくれ】


「過去を振り返っても状況は変わらない、帰られるのは未来だけね」そうつぶやくと、マリアンヌは夕焼けに染まる元首宮殿テラスから、祭礼を見に来ていた群衆もまばらになってきたサンマルコ広場へと降りていったのでした。

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