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ジュリエットの進言

第98章 

 ーー『ジュリオ、心からご結婚のお祝いを申し上げます。報告のお手紙、嬉しく拝見いたしました。私はもちろん、ロバートもステファンもとても喜んでいます。ぜひ一度、あなたが選んだ素敵なパートナー、マリー=ルイーズ・デュボア様を連れてヴァイツァー家にお越しください。いつでも歓迎いたします。


 ところで、ステファンから聞きました。ヴァティカンのあの隠し部屋に、アルフォンソ神父が亡くなる前に“マリー=ルイーズ”と床板に刻んだ形跡があった、と。あなたが見つけたのだそうですね。私は神父のご遺体を発見したとき、全く気がつきませんでした。部屋の中はとても暗かったこともありましたし。


 あなたが彼女と一緒に、ヴァティカンのあの隠し部屋に訪れようとしたお気持ち、何となくわかります。あなたがお手紙で書かれたとおり、マリー=ルイーズ・デュボア様との出会いはアルフォンソ神父のお導きかもしれないと、私も思いますわ。


 あの部屋はすでに解体され、代わりに陽の降り注ぐ、美しい中庭になっていたのですね。そこであなたが彼女にあの紅珊瑚のネックレスを贈られたと伺い、自分のことのように嬉しく感じました。やはりあのネックレスは、ベレッツァ家に代々伝わるべき家宝なのだと思います。きっとアルフォンソ神父をはじめ、ベレッツァ家のご先祖のかた方が、デュボア家とのご結婚を祝福していらっしゃると思います。どうか奥様を大切にされて、いつまでもお幸せに。そして近いうちに珊瑚のネックレスの御利益がありますように。』ーー


 ジュリオへの手紙を微笑みながら書き終えると、ジュリエットは封蝋をし、すぐまた新しい便箋をライティングビューローに出しました。

 ところが先ほどはペン先がすらすらと動いたのに、今度はなかなか書き出すことができずにいました。


  ジュリエットのもとにはジュリオからの結婚報告の手紙とほぼ同時に、カテリーナからの手紙が届いていたのですが、そこには、いつものカテリーナらしからぬ、子育てに関する悩みと不安が書かれていたのでした。カテリーナは実母には心配をかけたくないと、家庭内では気丈に振る舞っているようでしたが、長きに渡る夫の不在で、自分一人の肩にのしかかる一家の後継者の養育という重圧に、苦しんでいるようでした。


 ステファンという後継者である男子を育てた経験があるとはいえ、ジュリエットのそばにはロバートという信頼する夫がいて、カテリーナとは状況が違います。ジュリエットもどのようにカテリーナにアドバイスし、なんと言って慰めてあげれば良いのか、わからないまま、ただ椅子に座って考え込んでしまったのです。


 「どうしたんだい? ペンを持ったまま遠くを見つめて。」

 ぼうっとしたままのジュリエットに、外出先から戻ってきた夫ロバートが声をかけました。

 「あ、ロバート、お帰りなさい。」

 「ジュリオへの返事かい? 結婚のお祝いの品は明後日には届くから、お祝いの手紙と一緒に送ろう。」

 「ええ、そうね。ジュリオへのお手紙は書き終わったのだけど…」


 ジュリエットはいつもの習慣ですぐにロバートに状況を説明し、彼に素直にカテリーナへのアドバイスの内容を相談しました。


 「なるほど。実際カテリーナ様にはご両親がご健在だろう?優秀な乳母もついているだろうし。問題は具体的な養育方法ではなく、彼女の心持ちなんじゃないかな? 彼女が自分への自信を取り戻せれば、落ち着いて子どもに向き合えるようになるはずだ。」

 「自分への自信…そう、彼女はリュートが得意だわ。ステファンとコンスタンツァの婚礼の宴でのカテリーナの演奏は素晴らしかったわ。あのときのカテリーナはとても輝いていた。」

 「ああ、そうだったね。あのときの彼女は自信に溢れていたはずだ。演奏会のようなものは準備も手間も大変だから難しいけれど、たとえば月に数回でいいから自宅で知り合いに教えるとか。子育ての気分転換にもなるし、人に教えるって、自分の能力が他人の役に立っていると実感できて、自己肯定感が上がるはずだよ。」

 「素晴らしいアドバイスだわ、ロバート」

 早速ジュリエットは、カテリーナあての手紙に、このロバートのアイデアをお勧めしたのでした。


 もちろん、ジュリエットもロバートも、カテリーナに良かれと思って進言したことだったのですが、かつて、パオロがマリアンヌと最後に会ったとき、マリアンヌの前で呟いたあのカエサルの言葉のような展開になるとは、誰も予想もしなかったでしょう。


 “始めたときは、それがどれほど善意から発したことであったとしても、時が経てば、そうではなくなる”


【参考】第2部 第42章 https://ncode.syosetu.com/n5182ip/142/

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