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紅珊瑚を伴って

第3章

 ジュリエットはロバートと結婚後、男の子の双子を産みました。

 しかし片方の男の子は身体が弱く、七歳になる前に亡くなってしまいました。


 哀しみにくれるジュリエットでしたが、生き残った息子ステファンをジュリエットもロバートも溺愛し、ステファンは無事育っていきました。

 やや内気な性格のステファンでしたが、とても物覚えはよく、乗馬よりは読書が好きな賢く落ち着きのある青年になり、優しい性格だったので、あまり社交的ではないものの、幼なじみといったよく知る友人や仲間からは、とても好かれていました。


 ちょうどステファンが生まれる頃、神聖ローマ帝国皇帝も代替わりし、ロバートの幼なじみだった先代皇帝の孫が新皇帝として即位すると、ロバートも側近の一人として取り立てられ、忙しい日々を過ごしていました。

 そんななか、あっという間に月日は過ぎ、18になったステファンに縁談話が舞い込んできたのです。

お相手はジャンカルロの息子フレデリックと、かつてロバートとの婚約話のあった女性との間の三女コンスタンツァ。フレデリックたちの駆け落ち未遂事件はもはや両家では笑い話になっていて、コンスタンツァはステファンとは幼なじみのような間柄でもありました。


 物静かなステファンとは対照的に、コンスタンツァは陽気で自分の意見を率直に言うはきはきとした性格。この婚約もコンスタンツァの希望で申し入れされたようなものでしたが、幼い頃から陽気で明るい、自分と正反対な性格の彼女にステファンはもともと惹かれていたようです。家族ぐるみの付き合いで、お互いをよく知る間柄でもあり、皇帝陛下からも「良い縁談なのでは」というお言葉もあり、トントン拍子に話がまとまり、婚約が決まりました。


 そして息子の結婚式の準備を始めたジュリエットでしたが、息子の婚約者コンスタンツァに、結婚のお祝いとして、あの珊瑚のネックレスを贈ろうかと考えついたのです。

 「娘がいたら娘に譲りたいと思っていたけれど、どう思われますか?」

 実はジュリエットは双子を出産した4年後に再度妊娠したのですが、残念なことに流産してしまいました。妊娠がわかると『この子はきっと女の子に違いないわ』と喜んでいた姿を思いだしたロバートは、どう思うかとジュリエットに問われ、言葉に詰まってしまいました。


 「ごめんなさい、ロバート。突然こんなことを聞いてしまって。」

 「いや、うん、そうだね。君の好きなようにしていいんじゃないかな。でも私たちにまだ子どもができる可能性だってあるかもしれないし。」

 「そ、そうかしら・・・。でもコンスタンツァはエレノア様の血のつながったひ孫でもあるから、受け継ぐにもふさわしい方のような気がして。」

 「確かにそうだね。でも君は彼女にとって姑となるわけだけど、彼女の気持ちをそれとなく確認してからのほうがいいと思うよ。コンスタンツァはもちろん、父親のフレデリックでさえ、エレノア様についてほとんど知らないだろうし・・・。」


 ―代々伝わるこのネックレスを譲ることで、自分の思いを押しつけることになってしまったら、コンスタンツァも気が重くなってしまうかもしれない、まして安産のお守りとされる珊瑚のネックレスでもあるし・・・―

 結婚式の打ち合わせも兼ねて、両家で食事会をした機会に、ジュリエットがアルフォンソ神父からの家族の歴史をそれとなく話しながらネックレスを見せたときに

 「あら、ずいぶんと古風なデザインのネックレスなのですね。エナメルの装飾のチェーンにしたら今風な優美な感じに変身しそうですけど。そうすればもっとジュリエット様にお似合いになりますわ。」

 と、コンスタンツァにリメイクを薦められて、ジュリエットは、

 ―彼女にとっては知らない人たち遺品ですものね。譲られても困惑してしまうかもしれない。せめて現代風なデザインに作り直そうかしら? それなら少しは喜んで身につけてもらえるようにかしら? ―

と悩んでしまいました。


 そんな、どちらかといえば幸せなことに頭を悩ませていた時に、ローマからフィリップの体調がかなり思わしくないとの知らせと、ヴェネツィアからマリアンヌが体調悪く会いたがっている、という悲しい知らせが、ほぼ同時に入ったのです。

 ロバートの計らいで、ジュリエットは急遽ローマとヴェネツィアに向かうことになりました。

 「私は政務があるので、国を離れられない。護衛としてステファンを同行させよう。よい機会といったら語弊があるとは思うが、ヴァティカンやヴェネツィアにいる親族や知己の方々にステファンの婚約の報告も兼ねて紹介するとよいと思うよ。それにぜひステファンに祖父であるフィリップ殿を会わせてやりたい。10年以上ずっと里帰りする機会も時間もなかったことは申し訳なかった。少しゆっくりしてきてはどうかな。」


 ロバートの言葉におされて、ジュリエットは息子ステファンとともに旅立つことになったのですが、出発の直前、ふと、ロバートに連れて行ってもらった金細工師の工房で、ジュリエットはあの珊瑚のネックレスを現代風にリメイクしてもらうかもしれない、と思い立ち、持っていくことにしたのでした。

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