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年末年始の穏やかカップル  作者: 宙色紅葉
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数日遅れのお年玉

 明日から仕事か……と、切ない気分に浸っていると、彼が後ろからバフッと抱き着き、無言で一枚の小さな封筒を手渡して来た。

 二頭身のデフォルメ化された可愛い竜が描かれているソレはポチ袋で、かなりの厚みがあり、角が破けるのを対策して、セロハンテープで補強されていた。

 いくら鈍い私でも、大体の察しはつく。

 きっとコレは先日渡したお年玉のお返しで、中にはラブレターのようなものが入っているのだろう。

「開けてもいい!?」

 ワクワクと問いかけると、後ろにいる彼が頷くのを感じた。

 中身はやはり、一枚の便せんだった。

 真っ白いシンプルな紙面に、角張った彼の文字が並んでいるのだが、可愛いものを好きな私を思ってか、所々に、ポチ袋のおまけでついてきた可愛らしい竜のシールが貼られている。

 きっと、どのようにして手紙を書けばよいのか、分からなくなってしまったのだろう。

 直近の嬉しかったところや、私の好きだと思ったところなどが、だ、である調でぶっきらぼうに書かれている。

 言葉で話すよりも、文字で書く方が不器用になってしまうようだ。

 そんな彼が面白くて、私は笑みを溢した。

「ねえ、素敵なお年玉をありがとう。凄く嬉しい! やっぱり、言葉にされるといいものだね。ふふふ、照れてるんでしょう。貴方は、照れるとすっごく口数が少なくなって、絶対に顔を見られないようにするもんね。だから、私に抱き着いてるんでしょ。体がアッツアツで、私を抱く腕にギュッと力がこもってるの、バレてるよ。ふふ、かわいい。赤い顔でも見ちゃおうかな……キャッ! ちょ、ちょっと、や、止め!」

 普段は私が照れてばかりなので、久しぶりに優位に立てたのが嬉しくて揶揄っていたら、後ろからうなじと耳にキスを落とされた。

 私を照れさせて、自分の照れを消し去ってしまおう、という魂胆なのだろう。

 昔から彼がよくとる手だ。

 まあ、分かっていたのに揶揄った私も私なのだが。

「分かった、私が悪かったから! くすぐったいって! ねえ、恥ずかしいよ!!」

 モタモタと暴れてみるも、ガッチリと抑え込まれているせいで逃げられず、熱い唇が触れた首筋から、全身に熱が広がっていくような錯覚さえ覚える。

 真っ赤になって彼の腕の中でうずくまっていると、ようやく手を放した彼が、涼しい顔で、

「君は照れ屋だな」

 と笑った。

 どの口が!! と思うのだが、あいにく、彼の照れた姿を拝めたことはほとんどない。

 彼は滅多に照れないし、照れても今日のように隠したり、逃げてしまったりして、絶対に見せてくれないのだ。

 以前、何故そんなに頑なになるのか、聞いてみたら、格好悪いから嫌なのだと言う。

 絶対にかわいいのに……。

 死ぬまでに一度はしっかりと彼の照れ顔を拝み、可能なら、スマートフォンで連写したいものだ。

『来年は、もっと褒め称えた内容の手紙を渡して、彼を恥ずかしくさせてみようかな。いや、でも、それじゃ私が自爆しちゃう気がする。どうしたものかなー』

 火照った顔を覚ますべく、ポチ袋を団扇のように使って顔に微少な風を送る。

 それから、イスに深く腰掛けるようにして彼にしっかりと体を預け、ぬくぬくとリラックスしながら、次のお年玉に思いを馳せた。

 新年が始まったばかりだというのに、ずいぶん気の早い話だと思うが、彼と一緒にいると、どうしても楽しい未来のことを考えてしまう。

 過去も、未来も、もちろん今も愛おしくて、幸せだな、と笑みを溢した。

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