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謝罪と冤罪  作者: せいじ
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2  郵便不正事件

 謝罪をしなければ、何をされても仕方がない。


 それはつまり、何かをしたことによる制裁ではなく、ただ態度を以って決める。


 それが日本人の在り方ですが、そもそも何もしていないのに何故謝罪をしなければならないのか?


 例えば、冤罪ラッシュと言われた時期がありました。


 自白を強要され、やってもいないことをやったと言わされた。


 その結果、辻褄の合わない調書や裁判によって、無実の人が罪を着せられました。


 反省していない、情状酌量の余地が無いと。


 中には、事件そのものが無かった事例もありました。


 無実なら、罪をねつ造しようとしてまで、いわば権力による制裁を科したのです。


 それがかつて、世間を騒がせた郵便不正事件になります。


 郵便不正事件は2009年に発覚し、当時厚生労働省の村木厚子局長(当時)が逮捕されました。


 障害者に対する郵便料金の値引きを悪用した事件で、当時はセンセーショナルに報道されました。


 厚労省女性事務次官候補と言われた村木局長が、障害者の特権を悪用して不正を働いたのですから、下手な議員の不正よりも話題になりました。


 だが、村木局長は罪を認めず、もちろん謝罪もしませんでした。


 何でも検察は和歌山毒入りカレー事件を引き合いに、自白するように求めたそうです。


 そして事情を知らない世間は、当然の如く検察を信じました。


 村木の不正は明らかなのに、罪を認めない上に謝罪をしない村木はケシカランが当時の風潮でしたが、後になって明らかになるように、事件の主犯格を始め、関係者は村木局長は事件とは無関係と証言していました。


 しかも、村木氏が関与したという証拠もありませんでした。


 それもそのはずで、村木氏は何もやっていないんですから。


 自白も無く、客観的な証拠も無い。


 このままでは事件化が難しく、頭を抱えた検察は、証拠の捏造に踏み切りました。


 多分、普段から似たようなことはやっていたのでしょう。


 ある事件で証拠品のたばこの吸殻を紛失したので、代わりのたばこの吸殻を証拠に出して問題になった事件がありました。


 本当に紛失したのか、今となっては分かりません。


 しかし、一連の冤罪事件を鑑みると、相手が悪なら証拠の捏造も構わないと思ったのかもしれません。


 郵便不正事件を担当した検事であった前田恒彦主任検事(当時)は、それこそしてやったりと上司に述べたと言われていますが、真相はよく解りません。


 普通なら、村木氏の有罪は確定でした。


 しかし、優秀な弁護団の活躍により、突破口を見出したのです。


 村木氏の弁護団は返却された証拠品を丹念に調べ直し、そこに改ざんの後を見つけました。


 事態が反転しました。


 世間はもちろん、検察も恐慌状態に陥りました。


 それもそのはず。


 あの検察が、それも特捜部がそんなことをするはずがないと。


 無実の人を、陥れるなんてありえないと。


 もしこの出来事を小説で書くとしたら、どのようになるだろうか?


 この証拠のねつ造をする場面を作品に落とし込むなら、その背景に巨大な利権とか、あるいは陰謀とかを作らなければなりません。


 村木氏は、見てはいけないモノを見てしまったけど、本人にその自覚がない。


 検察もそのことを知らず、ただ碌な取り調べをせずに有罪に持ち込むような札付きの検事を担当にし、村木氏を追い詰める。


 しかし、その札付きの検事も偶然、見てはいけないモノを見てしまった。


 さあ、どうなる?


 と、こんな話になるでしょうか?


 そうでないと、少なくとも作品を読んでいる人は納得しないでしょう。


 だって、人の一生を左右することですし、よほどの理由が無いと説得力が持てないからです。


 しかし、どうもそのような陰謀めいたことは、無かったようです。


 それはまさに、事実は小説よりも奇なりを、地で行く話でした。


 ただ端に、小役人の小遣い稼ぎ程度の不正で、特捜部が出張るような大掛かりな事件ではなかったと、そんな話のようでした。


 そのままでは面白くないから、一丁大物を釣り上げようと、そういうことだったようです。


 まさかあの検察が、事件の主犯格が小物過ぎては面白くないから、証拠をねつ造して大物を逮捕しましたなんて、中二病もびっくりでしょう。


 小役人の小遣い稼ぎに検察の点数稼ぎと、どいつもこいつも保身とか忖度とか、実に小さな話しでした。


 しかしその程度の事件を大きく見せようとした結果、正義の牙城が、もろくも崩壊した瞬間しました。


 ついに大阪地検特捜部に捜査の手が及び、前田検事(当時)を始め、大坪弘道特捜部長(当時)、佐賀元明特捜副部長(当時)が逮捕されるといった、異例の事態を迎えました。


 こうして、えん罪なる言葉が、話題に上ることになりました。


 この前田検事が絡んだ事件では西松建設事件がありますが、別の検事は調書を改ざんして問題になる事件がありました。


 裁判で調書を否定したら、検事は得意気に被告を責めましたが、被告は被告で取り調べを盗聴しており、改ざんの証拠として録音テープを提出しました。


 結局検事は改ざんを認めましたが、記憶が混乱したとか、酒を呑んでいたとか不信感を醸成するのに十分な、反論にならない反論に終始しました。


 お前はネット右翼か?


 言いがかりとかねつ造とかを平気でやり、それが発覚すると誤魔化したり責任逃れをする。


 言い逃れが出来なくなると、ひたすら保身に走る。


 これはまさに、典型的なネット右翼と同類な輩だと。


 こんな程度の人間が、権力をかさに着て人の罪を決めるのかと、むしろ戦慄しました。


 相手が悪なら何をしてもいい、何をしても許される、何かをしなければ、悪に荷担することになると。


 結局、村木氏は不起訴になり、晴れて内閣府参事になり、ついに厚労省事務次官に就任しました。


 これは冤罪が明らかになった、稀有な例です。


 ここでも、科学よりも謝罪や態度が重視され、罪の有無は別になりました。


 しかも、弁護団が頑張ったお陰であり、もし証拠のねつ造を発見出来なければ、反省しない村木が悪い、検察はよくやったとされ、前田検事はヒーローになったでしょう。


 この物語の小説なら、検察を巨悪に仕立て上げるでしょうが、残念ながら彼らはただの公務員のようでした。


 これでは、物語には出来ません。


 つまり、この事件を最初からゼロベースで作るには、よほどの想像力が必要でありますが、読者は付いて行かないでしょう。


 だって、ありえないんですから。


 きっと、信じないでしょうし、作者の想像力の貧困さを非難したでしょう。


 しかし、そのあり得ない、検察が間違えるはずはないと思うこと自体が、この無実の人を貶めるようになったと考えます。



 そのあり得ないと思う気持ちが、えん罪を次々に生んだのでしょう。

 

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