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03 リオ様のお父様はいつも正しい

 お湯が張られた浴槽に体を沈めると、浮かんでいるバラの花びらがゆらゆらと揺れた。


 ため息と共に、私の体の緊張が解けていく。


「お嬢様、お疲れ様でした」


 そう言いながら、アレッタは丁寧に私の髪を洗ってくれた。その心地好さに、私はついうとうとしてしまう。


 久しぶりの社交界で、人々の黒い感情を見てしまい、きっと心が疲れてしまったのね。


 リオ様がいなかったら、逃げ出していたかもしれない。


「アレッタは大丈夫? 王宮で嫌な目に遭わなかった?」

「はい! コニー先輩がしっかりと守ってくださいましたから」


 ニコニコと微笑むアレッタは、タイセンの騎士に「おまえたち、どこに行く!」ときつい口調で呼び止められたとき、怯えるアレッタの代わりにコニーが対応してくれた話を聞かせてくれた。


「すごく怖い顔の騎士だったのに、コニー先輩は、堂々としていてすごかったです!」

「ふふっ、コニーらしいわ」


 まだ正式にバルゴア領の騎士になっていないコニーは、本当ならタイセンの王宮に入れない。


 そのため、リオ様が一時的に騎士に任命して、今回の旅に同行できるようにしてくれた。タイセンからバルゴア領に戻ったあとで、騎士の試験を受けることになっている。


「私も、コニーに負けていられないわね」


 リオ様の婚約者としてここにいるのだから、タイセンとの友好関係を壊すようなことをしてはいけない。


 それに、リオ様のお母様が『タイセン王族のようにきらびやかではないけど、あなたたちの結婚式も規模は同じくらいになるわよ』と言っていた。


 だから、一週間後に行われる結婚式は、とても参考になると思う。


 できれば、新婦のライラ様と親しくなって、お話を聞きたかったけど……。


 夜会での表情を見る限り、あまり関わらないほうがいいみたい。


 そんなことを考えながら、私は浴槽から出た。体を拭いて、ナイトドレスを身にまとう。


 浴室から出ると、エディ様とコニーの姿はなかった。


 なぜかリオ様が両手で自身の口元を抑えて、こちらを凝視している。


「?」


 私が不思議に思っている間に、アレッタは静かに頭を下げてメイド用の部屋に下がった。


「リオ様?」


 声をかけると「ゆ、湯上りセレナ!」と動揺している声が聞こえる。


「あっそういえば、リオ様にナイトドレス姿をお見せするのは初めてですね」


 リオ様に気を許しすぎているせいか、特に恥じらいは感じない。


「リオ様も入浴されますか?」

「そ、そう、そうですね」


 え? どうして急にそんな口調に?


「セレナは、先に寝てください!」


 なんだか急に、出会ったばかりのころの、女性が苦手だったリオ様に戻ってしまったみたい。


 顔も赤いし、ひとりでアワアワしている。


「大丈夫ですか?」


 心配になって尋ねると、「父の判断は正しかった……」と真顔の呟きが返ってきた。


「は、はぁ……?」


 疲れているせいで、頭が働かない。


 リオ様のこともよく分からないので、お言葉に甘えて先に寝ることにした。


 カルロス殿下が言っていた通り、部屋の奥にある寝室は二つに分かれている。


 私は大きなベッドに横になると、あっという間に眠ってしまった。


 ***


 次の日、私が目覚めたときには、リオ様の姿はなかった。


 アレッタが「リオ様は、エディ様と早朝から鍛錬に行きましたよ」と教えてくれる。


 私は部屋の隅で姿勢よく立っているコニーに話しかけた。


「コニーは行かなくていいの?」

「はい! あたしはお嬢様の専属護衛なので! タイセンにいる間は、ずーとお嬢様の側にいます」

「心強いわ」

「任せてください! お嬢様に許可なく触れようとしたやつは、全員、髪を引っこ抜いてやりますよ!」

「そ、それは、少しやりすぎかも……」

「そうかなぁ?」


 コニーなら本気でやりそうだわ。


「タイセンの人たちとは、問題を起こしたくないから、ほどほどにしてね?」

「はーい!」


 元気よくお返事したコニーに、わずかな不安を覚えながらも、私は王宮の庭園を散策することにした。


 そんな私に、アレッタとコニーが付き添ってくれている。


 昨日、王宮に入ったときにも感じたけど、タイセン国とエルティダ国は、あまり文化の違いがないように思う。


 なぜなら、建物や人の服装が、両国はとても似ているから。大きな違いがあるとすれば、神殿があって聖女がいることかもしれない。


 その聖女が王太子と結婚して、のちの王妃になるのだから、この国での神殿の重要さがうかがえる。


 王宮庭園の作りも、エルティダとそれほど違いがない。


 美しい庭園には、季節の花が咲き乱れている。まるで探検するように、気が向くままに歩いていると、話し声が聞こえてきた。


 今はなんとなく人に会いたくないので、反対方向に歩き出す。


 それを繰り返し、人がいないほう、いないほうに進んでいくと大きな噴水が見えた。


 水しぶきが涼しげで、引き寄せられるように近づいてから私は後悔した。


 噴水の反対側に人がいる。水音のせいで話し声に気がつけなかった。


 しかも、それが第二王子ディーク殿下と聖女ライラ様だったから、私は思わず下唇を噛んだ。


 一番関わりあいたくない二人に出会ってしまった。しかも、こんなに人気がないところで。


 ディーク殿下がライラ様に横恋慕していたという話を聞いていたので、より気まずい。


 静かに回れ右をして、その場を去ろうとしたのに、ディーク殿下に「あれ? 君は……リオの婚約者のセレナ嬢!」と大声で叫ばれてしまった。


 私は内心で頭を抱えながら、今、二人に気がついたような演技をしながら振り返るしかなかった。

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