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03 すみません、匂いをかいでました【リオ視点】

 馬車の中で向かいの席に座るセレナ嬢から、俺は目が離せなかった。


「ふふっ」


 彼女はこんな風に笑うのか。


 セレナ嬢が気を失っている間に、俺は叔母さんから『ののしられる覚悟をしておきなさい』と言われていた。


 叔母さんがいうには、セレナ嬢は悪名高い女性で『社交界の毒婦』と呼ばれているそうだ。


 たしかに、あれだけ悪役令嬢の演技がうまければ、そう呼ばれていても不思議ではない。


 はまり役を演じているので、悪口ではなく称賛する意味が含まれているのかも? でも、叔母さんがそこまで言うのなら気性が荒い人なのか?


 そうは見えなかったけどなぁ。


 叔母さんは、叔父さんに「あなた、どうしましょう。何を要求されるか、わかったものじゃないわ。ケガのことでリオが脅迫でもされたら……」と言いながら重いため息をつく。


 叔父さんは、励ますように優しく叔母さんの肩に手をそえた。


「大丈夫だよ。私が騒動にならないようにしてくるから、君はここにいてくれるかい?」

「わかったわ」


 顔面蒼白になっている叔母さんを見ていたら、自分がいかにやらかしてしまったのかがわかる。


「叔父さん、叔母さん。本当にすみません!」


 謝る俺に叔父さんは「わざとケガをさせたわけではないんだ。そんなに気を落とさなくていい」と笑みを浮かべてくれた。


 たしかにわざとではない。でも、結果として俺が見ず知らずの女性にケガをおわせてしまったことに変わりない。


 俺は改めてベッドに横たわるセレナ嬢に視線を向けた。


 夜会会場ではあんなに堂々としていたセレナ嬢なのに、今の姿は、とてもか弱そうに見える。


 青白い顔に、細い腕。


 この人は、ちゃんとご飯を食べているのだろうか?


 不謹慎だけど『こんなに細かったら、そりゃちょっと力を入れるだけで折れるよな』と思ってしまった。


 セレナ嬢の髪色は白に近い金髪だ。俺の妹も金髪だけど、もっと色味が強いし、元気はいっぱいなので似ても似つかない。


 女性の服のことは少しもわからないけど、セレナ嬢は肌を多く露出させていた。ふと、俺の祖母が『女性は身体を冷やしたらダメなのよ』と言っていたことを思い出す。


 セレナ嬢が目を覚ました。


 「大丈夫ですか?」と尋ねると、さまよっていた視線が俺に向けられる。


 思わず息をのんでしまうくらい、透き通った瞳だった。青というよりは水色で、彼女は全体的に色素が薄いのだとわかる。


 ののしられる覚悟を決めて、ケガをさせてしまったことを謝ると「あなたのせいではないでしょう? あなたは、体勢を崩した私を支えただけですから」と言ってくれた。


 その淡々とした物言いで、彼女が本気でそう思っていることがわかる。


 俺は細かい作業や難しいことを考えるのは苦手だけど、昔から人を見る目だけはあった。


 人の悪意がわかるとでもいうのか。


 他人を害してやろうと考えている奴は、見ただけですぐにわかる。だからバルゴア領で詐欺まがいの商売をしようと、父に話を持ち掛けてきた商人をすぐに捕えることができた。


 でも、その捕えた商人をどう罰すればいいのか。

 このようなことが二度とおこらないようにするには、どういう対策をとればいいのか。


 そういうことを考えるのが苦手だった。


 父には「リオは、領地経営には向いていないけど、当主には向いているんだよなぁ。お前は人の上に立つ人間だよ。だから、あとは優秀な補佐官を見つければいい」と言われている。


 そして、「リオ、お前が気に入った女性を妻に迎えろよ。爵位も王都での評判も何も気にするな」とも。


 父なりに俺のことを信頼してくれているのだなと嬉しかった。


 そうして、楽しみにしてやって来た王都だったけど、そこで暮らす女性は一言で表すと『臭い』だ。


 王都では今、若い女性を中心に香水というものが流行っているらしく、その匂いが強烈なのだ。


 一人でもけっこう臭いのに、集団になるとそれぞれの匂いが混ざり、耐えられない悪臭を放っている。


 この中から嫁になってほしい人を探せと?


 すぐに浮ついた気持ちがなくなり、これは父に与えられた試練なのだなと気を引き締めた。


 そういえば、今、目の前にいるセレナ嬢は臭くないな?


 馬車の中という密室にもかかわらず、嫌な匂いが少しもしない。治療のために使われた薬の匂いが多少するものの不快感はない。


 それどころか、彼女が笑って身体をゆらすたびに、花のような良い香りが漂ってきた。


 これは何の花だ?


 妹をコスモス畑に連れて行ったときに、こんな香りがしたような気がする。


 ぼんやりとそんなことを考えていると、笑うことをやめたセレナ嬢に「何か?」と冷たい声で聞かれてしまった。


「い、いえ……」


 すみません。


 まさかあなたの匂いを嗅いでましたとは言えず、俺はあわてて視線をそらした。

※すみません、香水を批判するものではありません(汗)


王都では、香水が流行りたてで、使い方を間違っている人が多いんですね。

たっぷりつければいいんでしょ的な。


そして、あとでわかるんですが、リオの鼻が動物並みに良い設定です(コスモスの花ってほとんど香りがしないんですって)

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