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01 隣国の夜会にて

《前書き》

【第二部】は王都を離れバルゴア領に行ったあとからスタートします。書籍版では、【第一部】の終わりからバルゴア領に行くまでのお話を、3万字ほど書きおろしさせていただきました。


もし、そこらへんの内容が気になる方は、お手数ですが書籍版をご購入ください。

(ツギクルブックスさんから発売中です!https://books.tugikuru.jp/202402-24248-dokuhu/)


(8/1追記)コミカライズも連載スタートしています!マンガParkさんで、マンガ家さんは霜月かいり先生です♪

https://manga-park.com/title/82650


書籍版を読んでいなくても、【第二部】を読むことに問題ありません。


【第二部】の漢字表記は、書籍に合わせています。修正していただいても変更できないことがあります(でも、普通に間違っていることも多いと思います、すみません・汗)

では、どうぞよろしくお願いいたします。

 クスクスと笑う声がここまで聞こえてくる。


 横目で見ると、少し離れた場所でひとりの女性が、数人の女性に囲まれ見下すように笑われていた。どうやら、夜会のドレスが田舎臭いとバカにされているらしい。


 リオ様と一緒に、隣国タイセンまで来たのに……社交界なんてどこも一緒なのね。


 私は心の中でため息をついた。


「セレナ?」


 心配そうにリオ様が、こちらを見ている。私に向けられる紫色の瞳は、いつもまっすぐで、まるで彼の性格を表しているようだった。


「社交界にはいい思い出がないだろう? 付き合わせてすまない」


 リオ様の大きな手が、私の手を優しく握った。


 たしかに祖国エルティダでの社交界は散々だった。

 母親が異なる妹マリンを引き立てるために、無理やり悪女を演じさせられる日々。そうしないと、父に食事を抜かれるので従うしかなかった。


 いつしか『社交界の毒婦』と呼ばれるようになった私を救ってくれたのは、我が国最強の軍隊を持つと言われるバルゴア辺境伯領の次期当主リオ様。


 初めて夜会で見たリオ様は、ダークブラウンの髪色で、王都の貴族男性のようなきらびやかさはなかった。だけど、鍛えられた体に、誠実そうな振る舞いで王都の令嬢たちはすぐにリオ様の虜になった。もちろん、結婚相手は選び放題。


 それなのにリオ様は、社交界の毒婦だった私と婚約したのだから、人生何が起こるか分からない。


 今は、タイセン国王太子の結婚式に、エルティダ国の代表として参列するため、リオ様と共にここにいる。


 バルゴア領とタイセンの王都が近いため、タイセンとの交流はエルティダ王家の代わりにバルゴアが担っているそうだ。だから、私がリオ様と結婚して辺境伯夫人になったら、社交や外交は必ず必要になってくる。それらを「嫌だ」と言って逃げる気はない。


 私はリオ様に微笑みかけた。


「リオ様と一緒なら、どこでも平気です」


 隣国でもバルゴア領の強さは知れ渡っているのか、どこでも丁重に扱われる。


 リオ様の婚約者という立場の私に無礼な態度を取る人なんていない。バルゴア領やリオ様の影響力の強さに改めて感心してしまう。


 だからこそ今の私には、周囲を見渡す余裕があり、社交界の嫌な部分が見えてしまう。


 先ほどドレスをバカにされていた女性はひとりになっていた。パートナーが近くにいないようで壁際で俯いている。今、彼女が味わっているであろう味方がいない悲しみや苦しみは、母が亡くなってからリオ様に会うまで、私がずっと社交界で感じてきたものだった。


 リオ様はおそらくあの女性に気がついていない。女性の汚い部分は、同じ女性のほうが分かりやすいのかもしれない。


「リオ様。あの……」


 そのとき、私たちに近づいて来た人たちがいた。


 先ほど、タイセンの王太子として夜会の始まりを告げたカルロス殿下と、殿下の婚約者のライラ様。


 穏やかな雰囲気を持つカルロス殿下は、金髪碧眼の正統派王子様といった風貌だった。そんな殿下にエスコートされているライラ様は、波打つピンクゴールドの髪に同じくピンク色の瞳で、幻想的な美しさだった。二人は、とてもお似合いで絵になっている。


 リオ様が片手を胸に当てながらカルロス殿下に向かって会釈した。


「タイセンの王太子殿下にご挨拶を申し上げます」


 リオ様の挨拶と共に、私も淑女の礼を取ったけど、リオ様が私の手を握ったまま放してくれないので、簡易的なものしかできない。


 カルロス殿下を不快にさせてしまったかもしれないとあせったけど、殿下は「堅苦しいのはなしだ」と笑った。


「リオ、久しいな」


 そう言いながら、親しそうにリオ様の肩に手を置く。


「結婚おめでとう。カルロス」


 私が思っている以上に、この二人は仲がいいのね。


 そういえば、リオ様が『子どものころに交流を兼ねて、お互いの領地を行き来していた』と言っていた。そのとき、カルロス殿下と、その弟である第二王子殿下と遊んだとのこと。もしかしたら、三人は幼馴染のような関係なのかもしれない。


 挨拶が終わると、カルロス殿下がライラ様を紹介した。


「リオは初めてだったな? 彼女は私の婚約者ライラだ。神殿から祈りの聖女の称号を与えられている」


 リオ様はライラ様に会釈したあとで、カルロス殿下に「祈りの聖女とは?」と尋ねた。


「我が国タイセンは、国を豊かにするために王家と神殿が協力しているんだ。ライラは神殿で祈りを捧げる役職に就いている」


 カルロス殿下の話を聞く限り、聖女と言っても特別な力があるわけではないらしい。祈りを捧げる女性を聖女と呼んでいるとのこと。


 ライラ様が私たちに会釈したあと、カルロス殿下はリオ様との思い出話を始めた。


 その間、ライラ様はチラッとどこか別の場所に視線を向けた。なんとなく、その視線を追うと、先ほど嫌がらせをされていた女性にたどり着く。


 ライラ様も、あの方のことが気になるのかしら?


 もしかして、私のように何か事情があって日常的にあのようなことが行われているのかも?


 ライラ様と話したくて視線を戻すと、ライラ様は微笑んでいた。


 とても嬉しそうに見えるのに、その笑みはどこか歪んでいる。


 私はこの笑みを知っていた。ライラ様は、あの嫌がらせを受けていた女性を見下している。なぜなら、ライラ様が浮かべる表情が、私を見下しているときの妹マリンにそっくりだったから。


 私の視線に気がついたのか、ライラ様の微笑みは、まさしく聖女というような慈悲深い笑みに変わる。その切り替えの早さに、私はゾクッと寒気がした。


 カルロス殿下は、リオ様に「ライラは貴族や平民問わず、絶大な人気を得ている。それに、とても可愛いんだ」と自慢している。


 たしかにライラ様のこの美しさ、そして、聖女という肩書きは、多くの人々を惹きつけると思う。でも、先ほどの歪んだ笑みを見てしまったあとでは、素直にすごいとは思えない。


「それで、リオ」


 カルロス殿下は、リオ様と私が繋いでいる手を見た。


「私との挨拶中ですら離さなかった彼女を、そろそろ紹介してくれないか?」


 ハッ⁉ となったリオ様は「セレナ、すまない。無意識に手を繋いだままだった」と言いながらも私の手を離さない。


「彼女はセレナ=ターチェ。俺の婚約者だ」

「セレナと申します」


 カルロス殿下は「あのリオに婚約者ができるなんて、感慨深いな」としみじみしている。


「そういうカルロスの結婚式は、一週間後だな?」

「ああ、そうだ。式までのんびり過ごしてくれ。リオとセレナ嬢は、まだ夫婦ではないそうだから部屋は同じだが、奥にある寝室は別々にしておいたぞ」


「はぁあ⁉」


 不満の声を上げたリオ様は、結婚式を挙げるまでキス以上のことはしないと私に宣言している。なぜなら私のことがとても大切だから、とのこと。


 バルゴア領では、寝室どころか部屋も別々なので問題ないのでは?


 私の疑問はリオ様の悔しそうな呟きで解決した。


「くっ、今夜はセレナと手を繋いで寝るつもりだったのに!」

「文句があるなら、そうするように伝言したバルゴア辺境伯に言うように」


「父の指示か‼」

「ははっ! まぁ楽しんでくれ。私の可愛い弟も、リオに会うのを楽しみにしていたぞ」


 リオ様を残してカルロス殿下とライラ様は去っていく。


 王太子殿下とその婚約者の挨拶が無事に終わり、私はホッと胸を撫で下ろした。とたんに背後から「リオ!」と声がかかった。


 振り返ると、カルロス殿下と同じ金髪碧眼の青年が手を振っている。


「ディークか?」

「ああ、そうだよ!」


 リオ様が私に「カルロスの弟で、この国の第二王子だ」と教えてくれる。


 兄弟というだけあって、顔はどことなく似ているけど、穏やかなカルロス殿下とは違い、ディーク殿下は明るく賑やかだ。


「ディーク、紹介しよう。彼女は俺の婚約者だ」

「セレナと申します」


 ディーク殿下は、私をじっと見つめたままポカンと口を開けた。


「なんて美しいんだ……。リオ、僕に彼女を紹介してほしい!」

「いや、だから、俺の婚約者だ!」

「この女神がリオの婚約者? つまらない冗談はいいから!」


 私の手を取ろうとしたディーク殿下は、ようやく私たちが手を繋いでいることに気がついたようだ。


「ほ、本当に婚約者なの?」

「だから、さっきからそう言っている」


 怒っているのかリオ様の顔が怖い。

 ディーク殿下は、大きなため息をついた。


「兄様に続いて、リオまでこんな美人と婚約を……」


 頭を抱えるディーク殿下に、リオ様が「まだ婚約者が決まっていないのか?」と尋ねた。


「いるよ」


 そう答えたディーク殿下の表情は暗い。


「あれさ」


 やる気なく指をさした先には、あの嫌がらせを受けていた女性がいた。


「見てよ。あのどこにでもいるようなライトブラウンの髪に、平凡な顔。一応、伯爵家の令嬢なんだけど、王都から離れた領地を治めているせいか、流行に疎くてさ。田舎者で困っているんだ」


 夜会の間中は、できるだけ笑みを浮かべるようにしていたけど、私はスッと真顔になった。こんな話を聞かされてヘラヘラ笑えない。それは、リオ様も同じようだった。


「そこまで」


 リオ様が手を上げると、ディーク殿下はようやく黙った。


「二人の間にどんな事情があるか知らないが、その話はやめてくれ。気分が悪い」


 迫力に押されたのか、ディーク殿下は「わ、分かった」と素直に頷く。


「じゃあな」


 リオ様は繋いでいた私の手を引いて「行こう」と優しく微笑みかけてくれた。


 今の私はこんなに幸せだけど、ディーク殿下の婚約者は……。そう思うと、暗い気持ちになってしまう。それは、過去の自分と彼女を重ねてしまっているからかもしれない。


 今日、タイセンについたばかりなのに、私はもう温かい人たちが暮らすバルゴア領のことが懐かしくなっていた。

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***


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