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社交界の毒婦とよばれる私~素敵な辺境伯令息に腕を折られたので、責任とってもらいます~【書籍化&コミカライズ】  作者: 来須みかん
【第一部】

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28/60

28 これからずっとつづく幸せ

 リオ様に想いを伝えてから数日後。


 私はターチェ伯爵家で、医師の診察を受けていた。私のうしろには付き添いのリオ様が立っている。


 医師は私の右手にふれながら「握りしめて、開いて」と指示した。


 言われるままにグーパーすると、医師にはニコリと微笑んだ。


「完治していますね。後遺症もありません」


 ホッと胸をなでおろす私の後ろで、「良かった……」とリオ様の声がする。


「ありがとうございました」


 治療もそうだけど、この医師はケガの診断書も書いてくれた。その診断書は、私がファルトン伯爵家でひどい目にわされていた証拠として役立った。


 結論からいえば、父であるファルトン伯爵は爵位を剥奪はくだつされた上、数年間、牢屋内で新薬の人体実験に使われたあとに処刑されることが決まった。


 私が願ったとおりの恐ろしい処罰だったけど、これは、私の希望というよりは、毒殺の罰を重くすることにより、同じような犯罪の抑制を狙ったものだとターチェ伯爵が言っていた。


 継母ままははもマリンも貴族籍から抜かれている。


 継母ままははは毒殺には直接かかわっていなかったものの、父に殺人を犯すようにそそのかした罪として、新薬の実験体になっている父の世話係をさせられている。


 人を殺してまで結ばれたかった真実の愛のはずなのに、二人は顔を合わせるたびにののしり合っているそうだ。


 マリンは、私への殺人未遂、傷害しょうがい教唆きょうさで、10年の懲役刑が確定している。本来なら15年だったところを、父の罪を明らかにすることに協力したので、約束通り減刑されていた。私に無理やり言うことを聞かせていたマリンが、今度は無理やり働かされるのだから、相応の罰のような気がする。


 毒殺の実行犯だった執事は、父の罪を明らかにすることに協力したので、本来なら父と同じ処罰になるはずだったが、新薬の実験体になる期間が父より短くなっていた。それでも処刑されることには変わりがないので、牢屋内で「話が違う!」と叫んでいるらしい。


 ファルトン伯爵家に仕えていた使用人達は、仕えていた年数と同じ間、他の貴族の邸宅に勤める権利を失った。


 これは全員ではなく、私に嫌がらせをしていた使用人達だけへの罰だった。


 マリンの専属メイドだった女性には、私を助けるために毒薬をすり替えてくれたことと、マリンの罪を告発してくれたことから、どうしてもお礼がしたかった。


 それを聞いたリオ様が、彼女の故郷に多額の資金援助をした。


 後日、ターチェ伯爵家を訪れた彼女は、泣きながら感謝を述べた。


「このご恩、一生かけても返し切れません! 下働きでもなんでもいたします!」


 彼女もまたマリンに冷遇されていたと知ったあと、私は彼女に親近感のようなものを覚えていた。だから、私のメイドになってもらえないかと提案してみた。


「私が、セレナお嬢様の、メイドに? い、いいんですか?」

「コニーは、騎士を目指しているから、今、私の専属メイドがいないの。もちろん、あなたがよければだけど……」

「わ、私なんかでよければ、ぜひ!」

「そう、よかったわ。あなた、お名前は?」


 名前を聞くと、メイドはポカンと口を開けた。


「あなたの名前を教えてくれる? 名前を知らないと不便でしょう?」

「……ア、アレッタです」

「そう、アレッタね。これからよろしく」

「はい、はい……セレナお嬢様……」


 アレッタは涙を流しながら、嬉しそうに微笑んだ。


 彼女とは違い、もう一人のマリンの被害者。マリンの護衛騎士は、実刑をまぬがれなかった。


 彼は、マリンとは身分違いの恋だと思い込んでいて、自分がマリンを慕っているように、マリンからも慕われていると思っていたそうだ。でも、決して結ばれることはないので、せめてマリンの願いをすべて叶えてあげようとしたらしい。


 護衛騎士の目的は、私の顔に傷をつけることだったけど、それより、バルゴア辺境伯令息のリオ様がいた場で剣を抜いたことが大問題になった。


 バルゴアへの宣戦布告を疑われ、本来なら一族郎党処刑されても仕方がなかったけど、リオ様も私もそんなことは望まない。だから、彼は騎士階級を永久に剥奪はくだつされた上で、数年間の労働刑を言い渡された。


 マリンとの恋物語から目が覚めた護衛騎士は、刑を言い渡されている間、神妙な顔つきで聞き、聞き終わったあとに「大変申し訳ありませんでした」と深く頭を下げたらしい。


 彼ら彼女らへの罰が正しいのか、そうではないのか私にはわからない。


 でも、その話を聞いたとき、私は長い長い暗闇をようやく抜けた、そんな気分になった。


 私はファルトン伯爵家を継ぎたくないので、伯爵位を返上することになっている。そんな私を、ターチェ伯爵家夫妻は養子にしてくださるそうだ。


 夫人にぎゅっと抱きしめられて「可愛い娘が二人に増えたわ」と言われたとき、私は嬉しさのあまり号泣してしまった。


 幸せ過ぎて、まるで夢を見ているみたい。


 私が物思いにふけっている間に、医師は荷物を片づけていた。


「では、お大事に」


 医師が部屋から出ていくと、リオ様が私の右手にふれた。


「ケガが治りましたね」

「はい」


「あなたにケガをさせてしまい、本当にすみませんでした」

「あれは、リオ様のせいじゃないですよ。それに……ちゃんと責任をとってもらいましたから」


「それだけじゃない、あなたを避けていたこともすみませんでした」


 リオ様は、私の手を優しく握った。


「すべての準備が整ったので、これから少し俺に付き合ってもらえませんか?」

「はい?」


 よくわからないまま、私はリオ様に手を引かれて歩いた。向かった先は庭園だった。ターチェ伯爵家の庭園は、手入れが行き届き、いつも花が咲き乱れていてとても美しい。


 この庭園をリオ様にお姫様抱っこされながら散歩したこともあったっけ。


 あのときは、恥ずかしくて仕方なかった。


 リオ様の目的地は、屋外休憩所ガゼボだった。ガゼボは、色とりどりの花やリボンで飾られている。


「わぁ、きれい……」


 これを見せたかったのかしら? と思っていると、リオ様が急に片膝をついた。


「リオ様?」


 紫色の瞳が怖いくらい真剣に、私を見つめている。


「セレナ嬢、愛しています! 俺と結婚してください!」


 それは、つい先日聞いた愛の言葉。


「準備が整ったって、もしかして……」


 リオ様は、照れながらうなずく。


「あなたのケガが治ったら、ここでこういう風に思いを告げようと準備していたんです」

「そうだったのですね」


 それを待てずに、私のほうから告白してしまったのね。でも、後悔はしていない。


 立ち上がったリオ様は、「返事を聞かせてくれますか?」と聞いてくる。


「知っているのに?」

「もう一度、あなたの口から聞きたいんです」


 改めて言うのは、なんだか照れてしまう。


「私も……リオ様を愛しています」


 嬉しそうに微笑んだリオ様は、ポケットから小さな小箱を取り出した。パカッと開けると中には指輪が入っていた。


 リング部分の銀細工はまるでレースのように細かく、中心にある紫色の宝石は、リオ様の瞳のようにキラキラと輝いている。


「あなたのために準備しました。受け取っていただけますか?」

「はい」


 その指輪、サイズが合わないと思うけど……。


 私が苦笑していると、リオ様が私の左手の薬指に指輪をはめてくれた。


「え?」


 はめられた指輪は、なぜか私の指にぴったりだった。


「サイズがぴったりなんですけど!?」


 驚く私にリオ様は、「ああ、前に指をからめて手をつないだことがあったじゃないですか? だから、大体のサイズはわかっていました」とわけのわからないことを言う。


 あの一瞬でサイズがわかったって、どういうことなの!?


「えっと……。リオ様って本当に不思議な方ですね」


 すごいのかすごくないのか、よくわからない。だから、リオ様の側にいるととっても楽しいわ。


「これからは、セレナって呼んでいいですか?」

「はい」


「じゃあ、俺のことはリオと呼んでください」

「えっ、急にそんな……」


「無理強いはしない、けど、いつか呼んでもらえたら嬉しい」


 リオ様が私を抱きかかえた。


「きゃあ!?」


 私はあわててリオ様の首に両腕をまわす。


「セレナ、あなたに出会えて俺は幸せだ」

「わ、私も……」


 自然とお互いの顔が近づいていく。唇を重ねるとなんだか不思議な感触だった。


 幸せすぎて頭がクラクラする。


「セレナ」


 もう一度、顔を近づけてくるリオ様。


「リオ様、これ以上は……歩けなくなるのでやめてください」

「大丈夫、俺がセレナを抱きかかえて歩くから」


 そういう問題じゃないのだけど……。


 ニコニコしているリオ様を見ていると『あれ? そういう問題なのかしら?』と思えてくる。


「えっと、では、もう一度だけ……」


 その一度が、二度になり三度になり、やめどきがわからなくなっていたころ、エディ様がリオ様を探しに来てくれた。


「リオ! うまくいったかぁ? って、わぁああ!? 悪い!」


 エディ様のうしろからコニーが顔を出す。


「師匠、少しは空気読んだほうがいいですよ」

「おまえにだけは言われたくない!」


 ホッと胸をなでおろした私の耳元で、リオ様は「つづきはバルゴアで。結婚式をあげてから」とささやいた。




 おわり





はい、まだ延々と書けますが、とりあえず書きたいことを全部書いたので、ここでいったん終わりにさせていただきます。


読んでくださった方、感想をくださった方、誤字脱字報告をしてくだった方、ありがとうございました!


おかげさまで、このお話は書籍化とコミカライズが決定しています。

詳細はこちらから:https://books.tugikuru.jp/202402-24248-dokuhu/


書籍では、新たに3万字書き下ろさせていただきました。

その後のリオとセレナが見れますので、どうぞよろしくお願いいたします♪


そして、下のほうにある☆評価にご協力いただけると大喜びします!


リオの妹の連載をはじめました↓

田舎者にはよくわかりません~ぼんやり辺境伯令嬢は、断罪された公爵令息をお持ち帰りする~

https://ncode.syosetu.com/n5599in/


こちらもどうぞよろしくお願いします!


他にも書籍化やコミカライズしてもらった作品があるので、よければ【来須くるすみかん】で検索してみてやってくださいませ!


すごく楽しかったです!

ありがとうございました!

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