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社交界の毒婦とよばれる私~素敵な辺境伯令息に腕を折られたので、責任とってもらいます~  作者: 来須みかん
【第一部】

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17 ようやく気がつけた【リオ視点】

 セレナ嬢に「私で女性慣れしてください」と提案されてから三日後、俺は重い身体を引きずるように、自分の部屋までなんとかたどり着いた。


 部屋に入ったとたんに床に倒れこむように膝をつく。


 ソファーでくつろいでいたエディが「おい、どうした!?」と驚いた。


「む、無理だ……こんなに過酷な訓練」

「は? 訓練って、お前、さっきセレナ様に会いに行くって言ってなかったか?」


 そう、俺はセレナ嬢に会いに行っていた。


 ちなみに、朝晩の護衛達の訓練は、問題なく進んでいる。


 叔父さんに貸してもらった護衛達は、動きが良くなってきたし、一体感も出てきたので、これならうまくやれそうだった。


 問題は、昼間に行われるセレナ嬢の訓練だ。


 この訓練の目的は、俺が王都の女性に慣れること。


 言われてみれば、確かに俺は王都の女性は苦手だった。バルゴアには、女性騎士がたくさんいて、彼女たちと接する機会も多い。


 でも、女性である前に騎士だったせいか、彼女たちの性別を意識したことすらなかった。


 いや、でもよくよく考えると女性騎士以外の女性達も、意識したことなかったかもな。


 それなのに、王都では意識しようと思っていないのに、俺の全神経がすべてセレナ嬢に持っていかれてしまう。


 俺の目は、セレナ嬢の指先のかすかな動きすら見逃さないように追いかけてしまうし、鼻はずっとセレナ嬢の良い香りをかいでいるし、耳はセレナ嬢の声を決して聞き逃さないようにと常に集中している。


 そんな状態の中、俺が女性に慣れるようにと、セレナ嬢はいろんなことを教えてくれた。


「リオ様。王都ではエスコートやダンスの前に、女性の手の甲に口づけをするふりをする人が多いですよ。あなたとご一緒できて光栄ですという意思の表れです」


「リオ様。ダンスでは、もっと密着したほうが良いと思います。手は女性の腰に……そうです! そこです」


 ニコニコと楽しそうに、そんなことを言ってくる。なんなら実践してくれる。


 今日だって、固まってしまっている俺の手の甲に、セレナ嬢は「こうですよ」と口づけをするふりをしたし、ダンスのポーズをとって「手はここです」と俺の手をセレナ嬢の腰に誘導した。


「……ほ、細かった……。エディ、俺、もうダメかもしれん。セレナ嬢の前でだけ、動悸息切れが激しくて、立っているのもやっとなんだ」


 俺の話を黙って聞いていたエディの顔がどんどん険しくなっていく。


「なぁ、エディ……俺って病気なのか? 一回、医者に診てもらったほうが……」


 今まで病気にかかったことがないので、病気がどんなものかわからない。


 エディは「やめろ、恥をかくだけだぞ」とため息をついた。


「リオ、よく聞け。俺は今まで、セレナ様に対するお前の気持ちがケガをさせた罪悪感なのかと悩んでいたが違った。それはもう、確実にほれてるだろう!?」

「ほれ……?」


「なんだ、その顔は!? まさか本気で気がついてなかったのか!? お前はセレナ嬢が好きなんだよ、愛してるんだ、嫁にほしいと思ってるんじゃないのか?」

「嫁……」


「お前が王都に来た目的、嫁探しだろう!? お前、何しにここに来たんだ?」


 エディの言葉をひとつずつ確認していく。


 俺は、セレナ嬢が好き。愛している。嫁にほしい。


 その言葉の意味を理解したとき、俺は「あ、ああ! それだ!」と叫んでしまった。


「それだじゃねーよ!?」

「病気じゃなかったんだな……これが恋か」


 今まで病気をしたことがなかったけど、恋をしたこともなかった。


 初めてのことは、よくわからなくて当然だ。


「エディ、俺はどうしたらいいんだ?」

「そりゃ、告白……いや、待てよ」


 エディが言うには、今、俺が告白すると、セレナ嬢は「はい」と答えるしかないらしい。


「ほら、セレナ様はケガをしていて他に行く場所がないだろう? それに、これからお前にファルトン家の悪事を暴いてもらおうとしている。そんな相手に告白されたら、どう思う?」

「……嫌でも受け入れるしかないな」


「まぁそういうことだ」

「だったら、セレナ嬢の問題がすべて解決して、セレナ嬢のケガが治ったときなら告白していいってことだな?」


 エディがうなずいたので、俺の心は固まった。


 明日は、ファルトン伯爵家のパーティーに参加する日だ。そのときに、セレナ嬢の実家の問題をすべて解決する。


 明日に備えて、今日は夜の訓練はしない。


 俺とエディ、そして、選んだ十人の護衛を部屋に集めて、テーブルの上に地図を広げた。


「ファルトン伯爵邸の地図だ。ただし、正確なものではない」


 この地図は、王都で良くある建物の内部構造が書かれたものだった。叔父さんに聞いたら、だいたい王都で暮らす貴族の建物は、こんな造りになっているらしい。


 どうしてかというと、王族でもないのに王都内に華美な建物を作らせないための法律があることが原因だそうだ。


 不用心だと思うが、そもそも王都はバルゴア領と違って平和なのかもしれない。そのおかげで俺たちもやりやすい。


 俺は選んだ十人の護衛を見回した。ここにいる護衛たちは、騎士になりたくてもなれなかった者ばかりだ。


 王都では、腕が立つのに貴族の後ろ盾を得られず騎士に成れない者が多いようだ。そんな者たちは、貴族の邸宅の護衛として雇われてくすぶっている。


 王都の騎士団が弱い理由は、これが原因だなとしみじみ思う。


「本来なら騎士でないお前たちは、雇われている貴族の邸宅以外に入れない。だから、お前たちを一時的にバルゴアの騎士に任命する」


 俺は辺境伯の父から、バルゴア領の騎士を任命する権限を譲渡されている。だから、俺がバルゴアの騎士だと認めた者は、試験を受けなくてもバルゴアの騎士を名乗れる。もちろん、そんな不公平なことは今までしたことがなく今回が例外だ。


「働き方次第では、希望者は正式なバルゴアの騎士になれる」


 ギラリと護衛たちの目が光った。


「ファルトン伯爵邸は、ターチェ伯爵邸の半分の広さもない。護衛もここほど多く雇っていない」


 俺は門がある場所を指さした。


「正門に二人、使用人が出入りするための裏口に二人待機しろ。俺とセレナ嬢がファルトン伯爵邸から出るまで、決して誰も外に出すな」


 護衛たちは、静かにうなずいている。


「邸宅内の者から文句が出ると思うが、すべて無視しろ。話が通じる相手だと思わせるな。相手が暴力をふるおうとしたら取り押さえろ。説明はしなくていい」


 話が通じない相手に、人はあきらめや恐怖を覚えやすい。


「あとの六人は、俺と一緒にファルトン伯爵邸の中に入れ。エントランスホールに一人待機。パーティー会場の入り口に一人待機。厨房の入り口に一人待機。人の動きを観察しろ」


「残りの三人は、パーティー会場内に待機。おかしな動きをしている者がいないか見張れ。待機後は、俺の指示を待て」


 俺はエディを振り返った。


「エディは、伝令係だ。俺の指示を皆に伝えてくれ」

「わかった。リオ、ひとついいか?」

「なんだ?」

「王都には、女性騎士がいない。セレナ嬢を守れる者がいない」

「俺が……」


 守るという前に、エディに「まさかトイレにまでついていく気か?」と言われて俺は黙った。


「ファルトン邸は、セレナ様にとっては敵地だ。何が起こるかわからない。念のために護衛をつけたほうがいい」


 エディが手招きすると、部屋にコニーが入ってきた。メイド服から動きやすい服装に着替えている。


「セレナ様には、コニーをつける。コニーをリオの権限で一時的にセレナ様の護衛に任命してくれ」

「わかった」


 俺はコニーを見ると「コニーを一時的にバルゴア騎士として認め、セレナ嬢の護衛騎士に任命する」と伝えた。


「最後に、これは殲滅戦せんめつせんではない。ファルトン邸で何が起こっているのか調べ、犯罪が行われていれば、その証拠を集めるのが目的だ。決して死傷者を出すな」


 シンッと辺りが静まり返った。エディの咳払いが聞こえる。


「リオ、安心しろ。誰も殲滅戦せんめつせんだなんて思ってない」

「そうか?」


 バルゴアではけっこう重要な指示なのに、王都では必要ないようだ。バルゴアでは、相手が獣や盗賊の場合は、すべて倒すのか捕えるのかなど、細かな指示が必要になってくる。


 会議が終わると早めに解散した。各自、それぞれの夜を過ごす。


 俺は一人、夜の庭園へと向かった。ターチェ家の護衛が巡回しているものの、庭園内に明かりはない。


 明かりがついた二階の窓を見上げた。あの部屋で、セレナ嬢が暮らしている。


 なんとなく見つめていると、窓が開いてセレナ嬢がバルコニーに出てきた。


 寝る前なのか、薄着なセレナ嬢は夜空を見上げながらハァとため息をつく。こちらには気がついていない。


 その表情は不安そうだった。


 すぐにでも『心配しないで、大丈夫ですよ』と言ってあげたいけど、今の俺にはそうすることは許されていない。


 セレナ嬢への気持ちにようやく気がつけた俺は、ケガをさせてしまったからとか、そういうのではなく、セレナ嬢の側にいられる正当な権利がほしくなった。


 護衛たちには『殲滅戦ではない』と伝えた。でも、ファルトン家の当主やその後妻たちは、セレナ嬢を冷遇して長く苦しめていた。俺の気持ち的には殲滅してやりたい。


 ファルトン伯爵家の連中は、自分たちが行ったことの罰を受けるときがきた。

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