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15 バルゴアであるということ

 『俺、考えるのが苦手なので、とりあえずファルトン家に乗り込んでいいですか?』と言ったリオ様は、何をするのかと思ったら、ターチェ伯爵夫妻に面会を求めた。


 でも、その日は、ターチェ伯爵が不在だったので、明日の朝会う約束を取り付けたらしい。


 次の日の朝、リオ様は私を連れてターチェ伯爵夫妻に会いに行った。私達の後ろにはエディ様が付いてきている。コニーも付いてきたがったけど、夫妻に呼ばれていないメイドを連れていくことはできなかった。


 テーブルをはさみ、ターチェ伯爵夫妻と向かいあい座る。私は訳がわからないまま、リオ様の隣に座った。エディ様は、少し離れたところに立って控えている。


 話を切り出したのはリオ様だった。


「叔父さん、叔母さん、ターチェ伯爵家の護衛を十人ほど貸してください」


 ターチェ伯爵は「別にかまわないけど、何をするんだい?」とリオ様に尋ねる。


 そうよね、気になるわよね。まさかその護衛を借りて、本当にファルトン家に乗り込むんじゃ……。


 私の予想に反してリオ様は「あ、鍛えます」と返事をした。


 ターチェ伯爵夫妻の頭の上には『?』が浮かんでいる。私も意味がわからない。


 伯爵夫人が控えているエディ様を手招きした。リオ様と付き合いが長いエディ様に通訳をしてもらうつもりなのかもしれない。


「エディ、どういうことなの?」


 エディ様は、夫妻の側に行くと姿勢を正した。


「リオ様は、本格的にファルトン家の問題を解決すると決めたようです」

「と、言うと?」


 ターチェ伯爵の質問にはリオ様が答えた。


「ファルトン伯爵は、セレナ嬢を冷遇していただけでなく、実の父とセレナ嬢の母を毒殺している可能性が出てきました」

「毒殺!?」


「何年も前の話ですし、もしそれが事実でも証明することは難しいでしょう。だから、俺とセレナ嬢が直接ファルトン家に乗り込みます」


 夫人が「の、乗り込むって!?」と悲鳴のような声を上げる。


「あ、もちろん、ファルトン家に乱暴を働きに行くわけではありません。でも、相手の動きを制限して、証拠を確実に押さえるために、俺が自由に動かせる兵が必要です」

「そのために護衛を十人貸してほしいと?」


「はい。すぐに意思疎通を図るのは難しいと思うので、五日ほど一緒に訓練をします」

「リオくん、ここはバルゴア領ではないよ。辺境伯に与えられているような権限の行使はできない。私情で人を罰するとリオくんが罪に問われる」


「わかっています。だから、俺の目的は、毒殺の証拠を見つけ犯人を逃がさないように、その場で取り押さえることです。そのあとのことは叔父さんに任せますよ。あ、もちろん、毒殺の事実がなければ何もせずに帰ってきます」


 ターチェ伯爵は「うむ」とうなずいた。


「わかった。リオくんの好きにしていいよ」

「あなた!?」


 驚く夫人を伯爵は「まぁまぁ」となだめる。


「不思議だけど、リオくんに任せたら大丈夫な気がするんだよ。バルゴア辺境伯からも『息子の好きにさせてやってくれ』と頼まれているからね」

「私もリオのことは信用しているわ。でも、はぁ……そうね」


 夫人は大きなため息をつきながら、頭を抱えている。


「困ったことに都合よくファルトン家から、リオ宛にパーティーの招待状が届いているの」


 夫人から招待状を受け取ったリオ様は「それは好都合ですね」と喜んでいる。


「へぇ、パーティーは七日後なんですね。身内だけの小さなパーティーだそうですし、本当にこちらに都合が良い」


 私もリオ様から招待状を見せてもらうと『セレナが迷惑をかけたお詫びがしたい』と書かれていた。


 夫人が「セレナさんに迷惑をかけているのは、こちらだと言っているのに……」と怖い顔をしている。


「セレナさんも一緒に行くのよね!?」

「はい」

「じゃあ、当日は着飾りましょう!」

「え?」


 夫人は「マリンとかいうあんな失礼な女、セレナさんの美しさで黙らせてやるわ!」と燃えている。


「今からドレスを作っても間に合わないから、オーレリアのドレスを改良しましょう! アクセサリーはどんなのがあるかしら?」


 『オーレリア』とは、嫁いでいった夫人の一人娘さんのお名前で……。

 はりきる夫人は、部屋に控えていたメイドたちを呼ぶとドレスの打ち合わせを始めてしまった。


 ターチェ伯爵とリオ様は、護衛の選別の話をしている。


「叔父さん、護衛を一堂に集めてくれませんか? 顔を見て俺が選びます」

「わかった」


 私がリオ様に『真相を解き明かす手助けをしてください』と言ったせいで、なんだかすごい話になってきてしまった。


 戸惑う私に気がついたのか、リオ様はそっと私の肩にふれる。


「セレナ嬢、心配しなくていいですよ」


 そう言ったリオ様の笑みはとても優しい。


「俺、難しいことや細かいことを考えるのは苦手なんです」


 リオ様は、確かにそう言っていた。


「でも、身体を動かすこと、兵を鍛えること、そして、敵を制圧することは得意ですから」


 その誠実そうな瞳を見つめながら、私は『あ、そうか。バルゴアってこういうことなのね』と妙に納得してしまった。


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