魔女とのろい
赤毛の魔女は恵まれない家に生まれた。
父親はうだつの上がらない魔法使いで、母親は魔女ですら無かった。家は常に貧しかった。
服も杖も箒も父や母のおさがりであった。
母親に似て赤毛の魔女は魔力も少なかった。
ある程度の年齢になった赤毛の魔女は、魔法学校に入学した。
内気な性格で、ボロをまとう赤毛の魔女には友達ができなかった。
同級生に名家の生まれの白髪の魔女がいた。
白髪の魔女は自分にないものすべてを持っているように見えた。
魔力、財力、権力。
ある日、流行りの服に見を包んだ白髪の魔女が赤毛の魔女の服を褒めた。
「あなたの服は愛情に満ち溢れていて羨ましいわ」
赤毛の魔女は顔を赤くしてうつ向いた。クスクスと笑い声だけが聞こえた。
赤毛の魔女は白髪の魔女に呪いをかけてやろうと思った。幸せな記憶が消える呪いを。
かけた人もかけられた人も等しく幸せな記憶を失う呪いを。
赤毛の魔女は呪いで消えた記憶を確認するために、幸せな記憶を全て紙に書き出した。
赤毛の魔女は白髪の魔女に呪いをかけた。
赤毛の魔女はノートを確認した。
記憶は一つたりとも消えていなかった。
呪いの一つもかけることの出来ない自分の不甲斐なさを嘆いた。
白髪の魔女は名家に生まれた。
両親は二人共優秀な魔法使いで、家柄もよく貧しさとは無縁であったが、同時に両親からの愛とも無縁であった。優秀な魔法使いである両親にとって子供との時間は仕事よりも優先度が低かった。
両親は白髪の魔女に優秀な教師、流行りの服、宝石、高価な杖と箒を与えた。
誕生日でもないのに送られてくるそれら全てが、白髪の魔女には両親の言い訳に見えた。
ある程度の年齢になった白髪の魔女は、魔法学校に入学した。
名家の生まれで優秀な白髪の魔女の周りには常に人がいた。誰しもが白髪の魔女を家名で呼んだ。
同級生に気になる赤毛の魔女がいた。
彼女は型遅れの服を纏って型遅れの杖を使っていた。
白髪の魔女は彼女のツギハギだらけの服に親の愛情を感じ、羨ましくなった。
ある日勇気を出して、赤毛の魔女に話しかけた。
「あなたの服は愛情に満ち溢れていて羨ましいわ」
赤毛の魔女は顔を赤くしてうつむいた。取り巻きはクスクスと笑った。
それ以降赤毛の魔女は白髪の魔女を避けるようになった。
ある晩、白髪の魔女は呪いを受けた。
幸せな記憶が消える呪いだ。
白髪の魔女は思わず笑ってしまった。
自分には幸せな記憶などないのだ。
呪いが成功することはない。