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【3分で読める怪談】怒れる老婆

作者: 薫 サバータイス





私の知り合いに、聡さんという人がいます。


聡さんはスーパーの店前や商店街の一角で、携帯のキャリア変更、場合によっては新規契約をすすめる営業職。


その会社での、先輩の話です。


先輩を、仮に雄二さんとしましょう。


雄二さんと聡さんは2人1組で、いろんな現場を回ります。


カラフルなパラソルを街頭に立て、道ゆく人へ携帯のキャリア変更をうながすのです。


他人としゃべるのが苦手だった聡さん。


でも、お客さん相手にスムーズな営業トークをくりだす雄二さんのマネをしているうちに、徐々にではありますが、少しずつ契約をとれるようになっていきました。


結果が出るようになってホッとしたのもあるのでしょう、聡さんと雄二さんの間にあったぎこちなさもなくなっていき、仕事終わりに飲みに行くようにも。


雄二さんは意外に気前がよく、ほぼおごってくれます。


でも、ひとつだけ困ることがありました。


酒グセです。


雄二さんは酒を飲むと、人が変わるのです。


目つきが悪くなり、口も乱暴に。


ビールを4杯も飲んだ日には、隣のお客さんにからんだり、お店の人へ暴言を吐いたり。


ただ、もともと気が小さいのか、からんだ相手が本気で怒り出すと、急に眠そうな顔をして口をきかなくなるのが常でした。


そんなわけで、大ごとにはならないと思い、ほったらかしにしすぎたのがよくなかったのかもしれません。


ある夜。


2人で3時間ほど飲んで、そろそろ帰ろうと駅へ向かっていました。


いい感じに酔っぱらい、聡さんは鼻歌なんか歌ったり。


でも、いきなり雄二さんの大声が響きわたりました。


「コラー、ジャマだろうが! ウロチョロするな、ババア!」


びっくりしてそちらを見ると、雄二さんの足元に、70、80歳くらいのおばあさんが倒れています。


そばには横倒しになったキャリーバッグも。


きっと足が悪いに違いありません。


普段はキャリーバッグを押しながら歩いているのでしょう。


雄二さんは倒れたおばあさんを助けようともせず、怒鳴り続けています。


「どこに目ついてんだ、ババア! ヨタヨタ歩くんじゃねえよ! オレが転ぶとこだっ…」


聡さんはわめく雄二さんを押しのけ、あわてておばあさんを助け起こしました。


「大丈夫ですか! おケガはありませんか!」


「ああ、うー……」


おばあさんは弱々しくうめいています。


「先輩! なにしてるんです! こんな年寄りに! さあ、救急車を呼んでください!」


聡さんは怒りましたが、雄二さんは動こうとしません。それどころか、腹立ちがおさまらないうようで、まだおばあさんをにらみつけています。


これはダメだと聡さんが自分で携帯の119を押そうとしたとき、倒れているおばあさんがつぶやきました。


「た、たぶん、大丈夫……」


「ほんとですか! ケガしてませんか!」


聡さんは急いで抱えおこします。


「大丈夫……でも、あの人、あたしをけってきたよ……」


しかし、雄二さんの口からはこんな言葉。


「けったんじゃない。足が当たっただけだろ」


「先輩!」


聡さんは救急車を呼ぼうとしました。


でも、「必要ない」というふうに首を振りながら、おばあさんは立ち上がりました。


心配しつつも、聡さんはキャリーバッグを引き起こします。


それを受けとり、おばあさんはフラフラとどこかへ去っていったのですが、ときどき振り返っては、ものすごい目で雄二さんの首の下あたりを凝視しています。


「呪われろ」とか「絶対に許さん」とか叫んでいる声も。


あとから考えると、もっとしっかり謝ればよかったのかもしれません。


しかし、酔いと疲れのせいもあり、つい彼女を行かせてしまいました。


翌日、出勤すると、雄二さんはトラブル自体は記憶に残っているようでしたが、細かいところまでは覚えていませんでした。


あらためて聡さんがあきれはてたのは言うまでもありません。


とにかく、その日は雄二さんにとって最悪の一日だったでしょう。


いつもならとれるはずの契約を何本も落としてしまいます。


少し目をはなした隙に、箱に入った新品のiPhoneを盗まれました。


それどころか、タチの悪いお客さんにタバコの火を押しつけられたりも。


最初は気にしないそぶりを見せていたのですが、だんだん雄二さんの元気がなくなります。


あげく、強風でパラソルが大きく曲がり、骨組みの一部が雄二さんの肩に突き刺さりました。


スタッフ用ジャンパーを脱がせると、中に着ていた雄二さんのTシャツは真っ赤。


すぐに119。


救急隊員の方々に協力して、一緒に雄二さんをストレッチャーへ乗せながら、これはあのおばあさんのせいかもと、聡さんは背筋がゾッとなったのでした。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分を見失うほど酒を飲むと、身を滅ぼしますね。 雄二さんへの災難はこれで終わるのか、それとも…。
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