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炎の道―戦国英雄譚・明智光秀―  作者: 芋久邇
美濃編
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第5話 京の対立

 翌朝、藤孝とともに寺を出ると、藤孝の兄・三淵藤英の屋敷を目指した。

 洛中に入る。相変わらずひどい有様だ。

 この頃の少し前までの京は、室町幕府管領・細川一族の内紛が続き、戦が常態化していた。最近になってやっと終わったというくらいである。ところが、家臣の三好長慶が細川氏の弱体化を察知し、主君・細川晴元に反旗を翻したことで再び戦が激化してしまった。

 三淵家も、代々幕府奉公衆を務める家柄である。細川藤孝も三淵家の出身だ。

 光秀は藤孝に続いて屋敷に入った。


「兄上、客人がいらっしゃいます」


 藤孝が奥の間に声を掛けると、三淵藤英が出てきた。


「ほう、何用で?」

「美濃国斎藤家家人・明智十兵衛と申します」


 光秀が名乗ると、藤孝が後を引き取って


「明智殿は遠路はるばる鉄砲を求めてこの京に参られたとか。もしよければ、兄上のものをお譲り致そうかと思いまして、こちらに案内つかまつりました」


 それを聞くと、藤英は値踏みするような目で光秀を眺め


「貴殿に鉄砲を譲ったとして、果たしてそれは公方様の御為になるのであろうか」


 と言った。


「私は公方様のことを第一に考えている。今公方様は三好におびえながら毎日を送っておられる。私は公方様のため、あちらこちらを捜し歩いてようやく八丁の鉄砲を揃えた。そのうち一丁を貴殿に譲ったとして、貴殿はどれだけ公方様に尽くしてくれるのか」

「鉄砲を欲しているのは私ではございませぬ。我が主・斎藤利政にございます。主は大きな国を作りたいと申しておりました。国が大きくなれば争いはなく―」

「大きくなるのは斎藤殿の版図! 公方様ではござらぬ」


 光秀の言葉を遮って言った藤英は鋭い目で光秀を見ている。


(もしや利政様はこうなることを予想して、足軽などではなく私に行かせたのではあるまいか)


 光秀はずっと持っていた疑問の答えがわかった。足軽如きでは口説けぬと察していたに違いない。しかし、ならば必ず手に入れなければならない、失敗して手ぶらで美濃へ帰れば嘲笑を受けることになるだろう。

「我が主は決して私欲のために争いに争いを重ねているわけではございません。いずれ、大きく豊かになった暁には、この京へ上り、公方様をお助けして敵を討ち払おうと考えておるのです!」


 光秀はさらに言った。


「これは、公方様の御為でもあるのです。鉄砲一丁が公方様のお味方何万騎に変わるのです。どうかその鉄砲を、私にお譲り願えませんでしょうか」


 藤英は光秀の言葉に動かされたらしく、ちらりと隣の藤孝を見た。藤孝が大きくうなずいたのを見て、藤英は答えた。


「よかろう、銭は要らぬ。だが約束致せ。この先、何年たっても公方様のために尽くすと」


 光秀はうなずいた。


「無論です。公方様がいらっしゃってこそ、太平の世は実現すると存じています」




「明智殿、やはりあなたはただ者ではございませぬな」


 帰り際に藤孝が言った。藤孝はしばらく屋敷に残るという。


「我々奉公衆が不甲斐ないせいで、今公方様は慈照寺銀閣の裏手にある中尾城に籠もっておられます。ああ、明智殿のような方が京におられたなら…」

「私はまた来ます。今度は美濃の兵を連れて。細川殿もそれまで精進してくだされ」

「はい。では達者で」


 光秀は帰路に就いた。

 ところが、少し歩いて京のはずれ近くまで来たとき、行列が近づいてきた。


(誰だ…?)


 少し立ち止まっていると、後ろから蹄の音がした。騎馬隊が来ているのだ。


「どけぃ! 筑前様の家人衆が通るぞ!」

(筑前…? まさか…)


 光秀が周りを見渡すと、京の人々は道端へ寄ってひざまずいている。この光景を見て、光秀は自分の予想が合っていたことが分かった。

 何騎もの騎馬がすぐ横を通り抜けた。


(これが…あの三好長慶の軍勢か)


 そう確信して立ち上がると、たちまち怒声が飛んだ。


「おい、そこの流れ者! 邪魔だ!」


 流れ者呼ばわりをされたのに内心腹が立ったが、慌ててよける。


(しかし数が多くないか、いつまで続くのだ。どこかで戦でもあったのか?)


 まだ三好の軍勢は走り抜けていく。もう500騎は軽く超えているだろう。


(やはり戦だ、間違いない)


 洛中で戦となれば巻き込まれるかもしれない。手に入れた鉄砲を持って早急に美濃へ戻るのが賢明だ。しかし、三好勢はどうやら東に向かっているらしかった。


(参ったな、美濃方面は危ういやもしれぬ)


と、ここまで考えたとき、あることに思い至った。藤孝の話によれば、将軍・足利義輝は慈照寺の裏の中尾城にいるということだった。そして、慈照寺というのは()()にある。


「三好の敵は公方様かっ!」


思わず声が出た。急いで三渕邸に戻った。


「三渕殿! 細川殿!」


返答はない。もうすでに駆けつけたのだろう。


(私も行かなければならぬ)


もう一度三渕邸を出て、東へ走る。三好勢もかなりの数が動いている。

三好勢と競うようにいくつめかの角を曲がったときだ。不意に光秀の前が真っ赤に染まった。

炎が燃え上がっていた。東山中尾城で上がった火は、天をも焦がす勢いで燃え広がった。


(なっ、馬鹿な、三好は将軍の御座所に…火を放つのか⁉)


轟々と火はあたりを照らす。その炎を見ながら、光秀は呆然と立ち尽くし続けた。

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