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炎の道―戦国英雄譚・明智光秀―  作者: 芋久邇
流浪編
15/15

第15話 混乱極まる畿内

説明が長くなりますが、今後の展開に非常に重要な話ですので、ご容赦ください。

 光秀と秀満は藤孝の邸宅へ泊ることとなった。藤孝は再び御所に向かったため、光秀達は酒を飲んで話していた。


「いやあ、殿が公方様から直々にお言葉を頂けるようになるとは、人の生涯は予想できぬものですな。」

「うむ。」


 心ここに在らずといった風で頷いた。


(公方様は、わしが鉄砲隊を指揮して戦に勝ったと思っておられる。こうなってしまっては、失望させることのないように、何としてもお役に立たねばならぬ。)


 長良川の戦いから、はや六年が過ぎた。光秀は新たな覚悟を胸に、歴史の表舞台に立とうとしている。



 ※ ※ ※



 この頃の畿内の情勢は緊迫していた。

 浅井賢政を中心とする北近江の国人衆による謀反を抑えられなかった六角氏の武威は大きく低下し、三好長慶はその期に乗じて畿内の敵対勢力の掃討に乗り出した。そのまま三好家が畿内制圧を果たすかに見えたが、丹波から若狭へと攻め込んだ三好方は大敗を喫する。時を同じくして、長慶の三弟・十河一存が死去。すると、かねてから打倒三好を唱えて戦い続けていた河内の畠山高政が挙兵し、さらには再び勢いを盛り返すべく、六角義賢も連合して兵を起こした。こうして、久米田の戦いが勃発し、三好勢を率いていた長慶の長弟・三好実休が敗死してしまった。

 畿内の実権を握るのは誰か。そのような状況の中で、将軍・足利義輝は幕府を立て直すために奮闘するのである。


 義輝は将軍でありながら剣豪として知られる、一風変わった人物である。『天下を治める器量有り』と評価されたが、生まれたときには既に幕府は混乱しきり、幼い頃から周囲の情勢に振り回されて生きてきた。

 この義輝は、すぐに三好家の勢力の衰えを察した。しかし、将軍家には自ら率いることが出来る軍事力がない。その為、各地の大名間の争いを調停したり、大名を任官させたりすることで、自分の権威を高め、信頼の置ける大名達を動かそうとしている。


 三好長慶もまた、苦労に苦労を重ねて今の地位を手に入れた。

 祖父は細川氏の裏切りにあって死去。後を継いだ父・元長は、再び細川晴元の下に付くことを決めたが、三好家家督の座を争う一族内の不和から戦となり、謀殺された。

 長慶はそれでも細川晴元に従い、優秀な弟達と共に戦場で活躍する。その後、六角定頼の助けを借りて父の仇を討ち、さらには細川晴元をも追放すると、ようやく畿内の実権を手に入れたのだ。


 足利将軍家、三好だけでなく六角、畠山といった京周辺の諸大名が争い続ける中、まず動きがあったのは三好だった。長慶の後継者であるはずの嫡男・義興が病没する。三好家の重鎮が次々と旅立つという状況に内心では歓喜した幕臣達だが、その後、更なる重大事件が発生したのだ。


 きっかけは、近江・六角義賢が嫡男・義治に家督を譲り、自身は出家して『承禎』と号したことにある。義治の評判は良くなく、家中には暗雲が立ち込めていた。



 ※ ※ ※



 永禄六(1563)年


「公方様、一大事にございます。」

「いかが致した」

「六角殿の御嫡子・右衛門督 義治殿が、無礼討ちと称して臣下を暗殺したと報せが届きました。」

「臣下とは誰ぞ。名の知れた者か?」

「はっ。先代・承禎殿の御信任篤き者にて、後藤但馬守と申します。」

「それで、どうなった。」

「義治殿の所業に怒った宿老達が観音寺城を占拠し、義治殿は城を追われたとのこと。」


 御所内の広間に、重い沈黙が流れた。室町幕府の秩序を取り戻そうとする義輝らにとって、守護大名が国衆達によって居城を追われたという衝撃は、あまりにも大きかったのである。

 光秀にしても同様だった。いくら下剋上が当たり前になったとはいえ、一時は覇者に最も近かった六角氏がわずか二代の間にここまで没落してしまったのは、驚きでしかない。


「……まさかな。」


 義輝が呟きを漏らした。


「公方様。かくなる上は、三好に味方するほかございませぬ。」


 藤孝が言上した。


「口惜しい。今こそ好機だというに……」

「いずれ、再び時が来ましょう。六角が倒れても、畠山、朝倉、武田、上杉……頼れる大名はまだまだおりまする」


 奉公衆の一人が言った。その通りだ、と周囲が同調する中、光秀だけは


(無理に決まっている)


 と思った。武田と上杉は犬猿の仲であるし、そもそも遠すぎる。朝倉にしても、助ける気があるならとっくに助けているだろう。また、一乗谷で暮らしていた頃の城下の雰囲気からも、一乗谷の発展しか頭にないと思われた。


(動くとしたら畠山くらいだろうが、単独で三好と戦うほどの力は無い。)


 意見しようかとも思ったが、義輝が「無念じゃ」と嘆いている様子を見て、口を開くのも憚られた。




 嘆いていた義輝らであったが、次の好機は案外早く来る。三好の勢力はかなり衰えてきていた。さらに、当主・長慶が病に臥せっているという噂もあった。どうやら、身内が次々と死んだことから心身に異常をきたしているらしい。

 そして、翌年の六月。病の床にあった三好長慶は、生きている唯一の弟・安宅冬康を呼び出した。冬康には、これが自分の最期になるとは到底思わなかっただろう。

 そう。長慶は自分の死後、この冬康が三好家の家督を脅かすと危惧し、殺害してしまったのである。もはや正常な判断を下せなくなっていた長慶は、冬康暗殺から一月後、ついにその生涯を閉じた。




 六角と三好。両家とも、事件は世代交代の最中に起きた。これらの時期から、畿内の雄であった両家は一気に没落の道へと転落していく。

次の覇者は誰になるのか。誰もが予想できない情勢の中、翌年、悲劇が起こってしまうのである。

お読みいただきありがとうございます。

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