Suppl.8 花の魔女、氷の騎士を思慕する
フロレンシアに戻ると、結局そのままアイセル君の家に居座ることになり、慌ただしくも二日後にはアイセル君との婚約の書類が整えられた。あっという間でびっくりしたけど、割とそんなものらしい。
周りの人達は、そうなるだろうと思っていたらしく、私が家を探すのをやめたことにずいぶん安心していた。
領主のライノさんには、花の魔女の力が弱まっていて、そのうちなくなるかも知れないことを伝えたけど、
「別にいいんじゃない?」
と、意外とあっさりしていた。
アイセル君には言わなくていいと言われたから黙っているけど、私が元草原の国の奴隷上がりだってことがわかったら、ライノさんやノストリアのおじいさまも王子みたいに毛嫌いして、身内になることを反対されるんだろうか。そう思うと、ちょっと気が引けた。
奴隷から救ってもらえたことには、王様に感謝しなければいけない。
王様からはその後もう一度「嫁に来るか?」と言われたけど、婚約したことを言うと、「フロレンシアならいいか」と、こちらもあっさりと引き下がってくれた。所詮、草原の花の魔女の代役だし、花の魔女でなくなれば興味も続かないに違いない。
後継者を第一王妃のところの王子から第三王妃のところの王子に変更したらしい。お城はバタバタしているようだけど、ようやくお城の中のことも考えるようになったのかな。
そういえば、あの婚約者だった王子の名前、思い出せずじまいだ。名前も覚えてないような人と結婚せずに済んで良かった。
そして、私は…
実は、花の魔女の力が戻ってる。
あの後、アイセル君の魔力の詰まった氷の結晶を食べれば、氷魔法だけガンガンに使える状態が続いていた。お手製のシャーベットやフローズンフルーツなどを食べ、時々ちゅってしてるうちに、氷の魔力がたまり、いつの間にか自分の魔力も回復していた。そして気がつけば、花を食べると魔法が出せる、花の魔女に戻っていた。いや、戻ったというか、氷の花の魔法も使えるから、強化されたというべきか。
もしかしたら、氷の花がある限り、私の魔法がなくなることはないかもしれない…。
今日も氷魔法をおやつに食べる。甘いイチゴの凍ったの。
乗馬はギャロップならできるようになった。毎日馬のお世話だってしてる。
ライノさんとこの執事さんに、帳簿の付け方を習ってる。そのうち何かの役に立つだろう。
通いで来る料理人さんに、ごはんの作り方も教えてもらってる。
近所の庭師さんに、季節のお花を欠かさないコツも教えてもらった。今、おうちの庭は花が満ちている。アイセル君がいっぱい花を植えてくれたから。
収穫があれば、ご要望に応じてお手伝いに行く。私が花の魔女なのは、みんな薄々感づいていたらしい。でも、お手伝い以外に力を求められることはない。
ここで暮らせるかな。ちゃんと、ここで生きていけるだろうか。
きっと、大丈夫。
花の魔女でなくてもいいと言ってくれた、あの人のそばだからこそ、花の魔女として、生きていける。例え、花の魔女じゃなくなったって。
大好きな、氷の騎士様となら。
お読みいただき、ありがとうございました。
書き足りてなかった内容は
氷の結晶を氷の花に見立て、花がないところでも魔法が使えるようになる
そしてタイトルの「花の魔女と氷の騎士」にふさわしい話になる
でした。
相変わらずアップ後にごっそり修正しました。
アップ前に、これでいける!と思ったはずなんですが。
まだまだ未熟なりけり。
(そして直したところに誤字を見つけ、誤字ラ・スパイラル)
無印とSuppleをつなげ、一部修正しながら、2022.10からカクヨムにも掲載。
第1章無印、第2章Supple.、第6章で完結。
ちょっとねちっとした話に展開しています。
ハッピーエンド主義の方は、なろう番で終わった感を味わっていただくことをお薦め…。
かつて後書きにメモってた、アイセル君がフィアをチョロく扱う内心を閑話として掲載しています。