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Suppl.2 花の魔女、連れ去られる

 アイセル君が出発して二日後、いつもより奥の果樹園からお手伝いを頼まれた。

 また違った種類の柑橘を育てていると聞いて、図々しくも好意でもらっているお土産に期待し、次のシャーベット候補にできるかな、と、ちょっとわくわくしていた。


 一仕事終えて、お昼休みが終わった頃、一緒に働いていた人たちが見当たらなくなった。

 あれ? 午前中で終わり? 午後から場所を変えるって言ってたっけ?

 聞き逃していたかも知れない。

 片付いている籠にちょっと不安を感じたのも束の間、殺気を感じて後ろに跳ね飛んだ。

 さっきまで立っていたところに長い針が刺さっていた。

 黒いローブを着た…三人組。

 うち二人は魔法使いだ。

「お迎えに参じました。花の魔女よ」

 迎え??

「王がお待ちです」

 王…。いつかは来るかも、とは思ってたけど。

 周りに人がいなくて良かった。

「今の私はフロレンシアの住人です。王都に戻るつもりはありません」

「王をお待たせするなど、いくらあなた様でも不敬が過ぎましょう」

 手にしていた花を口に入れようとした途端、手首にさっきと同じ針を打ち込まれた。

 何かしびれ薬のようなものが先に塗ってあったらしく、花が手から落ち、戸惑ってる隙に後ろから堅い棒のような物で頭を殴られた。

 遠のいていく意識の中、口の中に何かどんぐりくらいの大きさの物を突っ込まれた。

 吐き出さなきゃ…

 そう思うのに、意外とおいしくて、ついはむはむしながら、まるで沼のような深みに意識が落ちていった。


 目を覚ますと、布団を掛けられて、ベッドに寝かされていた。

 天蓋付きのベッド? どこのお貴族様の家だろう。

「よお、久しぶりだな」

 目の前には、椅子に座った王様がいた。玉座じゃない。普通の部屋にある椅子だ。

 ずきっと痛む頭をこらえながら、起き上がろうとしたけれど、殴られたせいか、眠り方が悪かったのか、世界が歪んでいく。

「戻ってくるのが遅いから、迎えを寄越したんだ。感謝しろよ」

 感謝? あり得ない。人が戻りたいなんて思ってもないの、わかってるだろうに。

「私は王子から婚約破棄されて、王都を追い出されたの。北の要塞に送られたけど不採用って言われたし」

「そろいもそろってみる目がない奴らだ…。だが、俺は出て行っていいとは言ってない」

 王様は愉快そうに笑っている。誰でも王の言うことは聞いて当然だと思っているんだろう。冗談じゃない。

「こっちは追い出されてせいせいしてたんだから。王都なんて戻りたくもない。フロレンシアに行かなかったら、私は他の国に行くつもりだったんだからね」

 他の国、と聞いて、王様はそれまでのゆるいにやけ顔を消し、真顔になった。

「それは、フロレンシアに感謝しなければいけないな。…よりにもよって花の魔女が他国に渡るなど、許せるわけがない」

「王子だけじゃないよ、あなただって悪い」

「あぁ?」

 不機嫌そうに睨み付けられたけど、王子が私を追い出そうとした原因は自分にもあるって、わかってるのかな。

「前から言ってたじゃない、王子の好みは、高貴な生まれで、品があって、かわいくって、そのくせ胸のでかい女だって。それをちゃんと見極めもせずに、私みたいなのを押しつけるからこういうことに…」

「乳でか令嬢が国政の役に立つか」

「乳と国政は関係ないですっ! 毎回そばに侍らせてたご令嬢はとっかえひっかえだったけど、好みはずっとおんなじだったでしょ? あの条件であれだけバリエーションがあるなら、ちゃんと探せばそれなりの相手はいるはず。もっと早くに私と王子を離しておけば。フロレンシアでだって、あんな嫌がらせされなくて済んだのに。あんな…」

 思い出す、飛んでくる魔法攻撃。荒れた地面。崩れた建物。何とか逃げていった敵と、負傷した仲間…

「…まあ、あれは感心したもんじゃないが、負けなかったからいいさ」

「次は負けるよ、あんなことしてたら」

「負けないさ、『花の魔女』がいればな。おまえの本気が見られただけで充分価値があった。あの時の本気のおまえはすごかった」

 嫌な顔でにやりと笑う。この高評価は、道具としての価値を見直し、もっと働かせるつもりなんだろう。

 腰につけた花の入った袋は…没収されてる。当然か。

「あれくらいのことでショックを受けるとは、魔女なんて呼ばれていながら、なまっちろい戦い方をしてたんだな」

 薄ら笑いを浮かべて、鼻で笑う。この王は、私をどういう人間だと思ってるんだろう。散々戦わせて、とうの昔に心なんてなくしてるとでも思ってるんだろうか。

「もうおまえは王都に戻ってきてるんだ。諦めろ。花の魔女に安住の地などあるものか」

 王都に戻ってる?

 ベッドを飛び降り、窓を覗き込むと、そこは高層階…。

 広がるのは、王都の街並み。半分見える城の中庭。

 王城の北の塔だ。

 何で?? どれだけ寝てた? そんなに長く…

 立ち上がったのが良くなかったのか、ぐるぐると目が回り出し、吐き気がしてその場に戻してしまった。

 口から出てきた、黒い実の名残…

 気絶する前に口に入れられたものだ。

 それを見て、王様が、そばにいた兵士に声を荒立てた。

「あの実を食わせたのか」

「連行する前に暴れましたので、い、言われたとおり、口に含ませ…」

「魔法を使わない限り使うな、と言っただろうがっ!」

 珍しく怒りを見せる王様に、私を連れてきたらしい兵が慌ててる。

 あの時食べた物が、さほど消化されていない。と言うことは、そんなに時間が経ってないはずなのに、どうして王都にいる?

 あれ? おかしい。手がしびれる。

「なんで、…王都に…?」

「『花の魔女』のために、奮発して魔道具を使ってやったんだ。あの果樹園はレオール侯爵の持ち物でな。あそこにある魔法鏡と…」

 王様が自慢げに転送魔法の話をしている間に、手から始まったしびれが全身に広がり、その場にしゃがみ込んだ。めまいが止まらない。

「おい。どうした?? フィオーレ?」

「気分…わる…」

 起き上がれない。そのまま意識が飛んでいく…

「医者を呼べ! 急げ!」

 王様が慌てるところ、初めて見た。私が死のうと気にもしないと思ってたのに。

 そうよね。連れて戻りたいくらいには、まだまだ利用価値があると思っていたなら、ここで死なれたらもったいない、かな…


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