006 再会、そして外へ
エルハルト・カーティスは、ルイズレッドの実兄である。紺色の髪、青く濁りの無い綺麗な瞳を有する青年。彼の実力はカーティス家の中でも上であり、カーティス家次期当主という声も上がっている程の存在だ。
記憶を辿る限り、魔力を失う前の彼は心優しい兄としてルイズレッドの目に映っていたようだ。しかし、魔力を失ってしまった際、エルハルトがルイズレッドを助けようとせずに目を背けていた事実は変わらない。
それに長い時間の間、一度もルイズレッドの前に姿を現していないのだ。にもかかわらず、今更何の用で会いに来たというのだろうか。そんな事を思いながら、私は渇いた口から彼を呼ぶ。
「お、お兄様……どうして、ここに?」
「ルイズの様子が気になったんだ。忙しくて中々来られなかったけれど、やっと会いに来る事が出来た。父上からも母上からも、ルイズに会う事を禁止されていたからね。骨が折れたよ」
笑みを浮かべながら、肩を竦めてエルハルトはそう言った。私自身が既にルイズレッドと化しているからか、彼の顔を見た瞬間に心の底から求めてしまいそうになる。それ程に彼の声は、仕草は、温かい物を感じさせる。
「けれど、やっとここへ来られた。ルイズ、僕はキミの味方だ。今まで助けられず、一人にしてごめんよ?」
「っ……!?」
頭を優しく撫でられ、流れるように頬に添えられた手は心地良い。今まで苦しかった物が、少しずつ晴れていくのが分かる。ルイズレッドが最も憧れた相手であり、最も愛し、そして最も信頼を寄せていた相手だからこそだろうか。
心の内から込み上げる感情を押さえ込む事が、苦しく思えてしまう程に私は彼を求めている。助けて欲しい、また愛して欲しい、家族として、兄妹として認められていたいと。必要とされていたいという欲求が込み上げてしまう。
「けれど、再会を喜んでもいられない。カーティス家はキミを処分すると決めてしまったようだからね、時間が無い」
「っ、そ、そんなっ……」
「でも大丈夫だよ。僕がキミを外へ逃がしてあげられる。これを着て外に出よう、キミの姿を誰かに見られないようにする為だ」
少しばかり汚れているが、フード付きの衣服を渡された。髪色が目立つの避ける為だが、外に出れるのであれば着るしかないだろう。それを身に着けた私を見ると、彼は被っていなかったフードを深く被せてしゃがみ込んだ。
同じ位置で目線を交わした彼は、愛おしそうに私の事を抱き締めてから言った。
「最後に会えて良かった。僕が出来るのはキミを逃がす所までだ、それからはこれを使いなさい」
「っ、これは……!」
「中に金貨が二十枚入ってる」
「で、でもっ、これはお兄様が働いて稼いだお金で」
「構わないよ。キミが生きてくれるのであれば、僕は何だってしよう。だって大事な妹だからね」
「お兄様っ」
ニコリと笑みを浮かべられた時、私は感情を抑える事が出来なかった。感情の赴くまま、彼を抱き締めて感謝の言葉を伝える。そんな私を優しく包むように抱き留めてくれている。
「さぁ行こう、ルイズ」
やがて立ち上がった彼は手を差し出してそう言った。そんな彼が眩しく見えた私は、その手を迷う事なく取ったのである。
――その時、私は知らなかった。
私の手を引いている彼の顔が、不敵な笑みを浮かべていた事を……。




