032 利用価値? ①
ルイズレッドが大浴場でロティと会合している頃、獣人国の王であるライルは机上業務と睨めっこをしていた。執務室が静寂で包まれている中、ライルの走らせるペンの音だけが室内を走っている。そんな雑音にも似た音を聞きながら、ライルの直属の部下の一人である側近が口を開いた。
「ライル様、一つ伺っても宜しいでしょうか?」
「何だよレオ、改まってどうしたんだ?」
聞きたい内容が予想出来るが聞くだけなら聞いてやる、とライルは言葉を付け足した。予想された問いというのは、答えを考える方法が容易い事もあってつまらない。そう感じていたライルだったが、彼……レオ・オーギュストは目を細めて問い掛ける。
「あの人間の娘をどうなさるおつもりですか?」
「どうとは?」
問われる内容の予想が的中したライルだったが、動揺する様子もなくペンを走らせ続ける。何も気にした様子もなく、表情は涼しいままだ。そんな余裕に包まれたライルを見据え、レオは言葉を続けて再度問い掛けた。
「お戯れを。分かっているでしょう?この国で普通の人間は住みづらい。そして人間は信用出来ないと思う者もたくさん居ます。ライル様は、民や我々臣下の信頼よりもあの小娘を取るおつもりですか?」
「男の嫉妬は醜いぞ、レオ。どうもこうも、あれはオレの客人だ。丁重に扱えと命じただろ?」
「嫉妬ではありません。命じられている事も重々承知していますが、人間を匿うという事がどれだけ民に誤解を生むのか理解しておられるのですか?」
「相変わらず頭が堅いな、レオ。もっと楽に生きたらどうだ?色々と楽になるぞ?」
「楽に生きさせて下さらないのはライル様でしょうに」
「ははは、違いねぇな。それで……あの娘の何が気に入らないんだ?」
走らせていたペンを置いたライルは、机の上で手を組んでレオに問い掛ける。いつの間にか書類の山が出来上がっており、全ての机上業務を終えたのだとレオは察した。その全ての書類に目を通しながら、レオはライルに説教にも似た事を言い続けたのである。
「獣人国……貴方の国で生きる我々は、人間を忌み嫌う獣人族の者達です。そこにただの人間が居るという時点で、やっかみを受けるのは当然という流れです。恰好の的になりたいのですか?王としての自覚はあるのですかっ」
「堅い、堅過ぎるぞレオ。もう少し気楽に考えようぜ?あの娘は利用価値がある」
そう告げたライルの言葉に訝し気な視線を向けつつ、レオは全ての書類に押印がある事を理解して椅子に腰を下ろして聞く姿勢を取りライルの言葉に耳を傾けた。