031 猫メイドは暗殺者?
獣人国で目を覚ましたルイズレッドは、メイドのロティに案内されて王族専用の浴場に来ていた。自分が入って良い場所なのかと躊躇したが、ロティは「お嬢様はライル様のお客人という待遇ですので、大丈夫ですニャ」と告げられて入浴を始めた。
広い空間に驚きつつも、ルイズレッドは全身を包み込む心地良さに安堵の息を漏らす。
「随分と広い浴場ね。でも獣人族って、お風呂苦手じゃなかったかしら?」
記憶上にあるノブレス・オーダーというゲームでは、獣人国で日々を暮らす人々は水浴びで済ませていたと記憶している。しかし水浴びは出来ても、湯浴みをするのだけは渋っていたはずだ。そんな獣人国で、ここまで広い大浴場がある事は正直驚いてしまったのだろう。
そんな事を思い出しながら、ルイズレッドは口元まで湯に浸かる。ブクブクと気泡を作り、ルイズレッドは奴隷印が複数の人間に見られた事を気にしていた。貴族令嬢である事は勿論、奴隷印が刻まれている事は人間として尊厳を失ったと同義だ。
「……あそこで気絶するなんて。いや、誰かに気絶させられたんだわ。簡単に背後を取られるなんて、ライル・グリフォードの護衛は優秀ね」
そう呟いたルイズレッドは、自分の放った言葉に小首を傾げた。そこで脳裏に浮かんだのはゲームの記憶。そこに映し出されたのは、ライル・グリフォードの背中を幼い頃より護って来た最強の護衛。
獣人国の影の執行人であり、王族であるライル・グリフォードの直属の部下。その顔、そして性別を思い出したルイズレッドは思わず名前を呟いた。
「ロティ・クリュス……あの猫人族のメイドが、この国の最強の影だわ」
「驚いたニャ、私をご存じなのですかニャ?お嬢様」
「っ!?」
「ニャハハハ。改めまして……獣人国の王族に仕える影の執行人、ロティ・クリュスですニャ。お嬢様に知られているとは、私も捨てたもんじゃニャいニャ♪ニャハハー」
嬉々とした表情を浮かべて、ルイズレッドの背後に出現したロティ。そこに驚いたルイズレッドだったが、ロティに訝し気な視線を向けて内から込み上げる気持ちを抑えて問い掛ける。
「あ、貴女は……ライル王子の命令で動く存在ですよね」
「ニャふ♪そうですニャ」
「貴女は私の監視が目的なのではありませんか?メイドは仮の姿で、本当の狙いは監視と暗殺。私が少しでも不穏な動きを見せれば、その場で処刑出来るようにと」
その問いに対してロティは、笑みを浮かべたまま言ったのである。
「――その通りですが、半分正解で半分不正解ですニャ」
「え?」