030 ルイズ、獣人国で目覚める
テレビ画面の明かりのみが照らす暗闇の空間で、顔の見えない誰かが夢中になって何かを操作していた。どうやらテレビゲームをしているようだが、一体何のゲームだというのだろう。そんな事を考えていると、ノイズが走って映像が切り替わった。
次は何かの山積みになった場所で、片手に銃を持った誰かが上の空で佇んでいる。目の前に広がる景色は赤。そう真っ赤な空間だ。これは……血?そう思った瞬間、佇んでいた者の手の平が真っ赤に染まっている事に気付いた。
これは夢ではない。これは記憶だ。自分の中にある様々な記憶が、混在して見せているのだろう。しかし、その映像は途中で途切れてノイズが走った。そして、私――ルイズレッドは目を覚ました。
「……ん、んん……?」
知らない天井が歪んだ視界の中に広がっている。徐々にその視界が鮮明になっていき、私の意識は覚醒していく。しかし、起き上がった瞬間に私は違和感を覚えた。天井は勿論、眠っていたベッドも、寝ていた部屋も、私の部屋ではない。
いや、当然か。私の部屋であれば、カーティス家に捕まった事を意味する。そうなれば、また時間が戻ったという結果になってしまう。だが戻っていないという事は、私はノブリス・オーダーのルートから抜け出したという事だろうか?
「お目覚めになられましたかニャ?お嬢様」
「え?」
そんな私の思考を遮るように、聞き覚えのない声が私の耳に入って来た。声が聞こえた方向に視線を向けると、そこにはメイド服に身を包んだ猫人族の姿があった。語尾は……気にしないでおこう。
「どうかなさいましたかニャ?お嬢様」
「えっと……その、貴女はどなたでしょうか?それとここは」
「ここはライル様の治める獣人国の城の中ですニャ。そして私は、この城に務めるメイドのロティと申しますニャ。お嬢様のお世話をするよう仰せつかったニャ♪」
「獣人国……っ、私の服、誰が……」
「ご安心して下さいニャ。着替えさせたのは私を含めたメイドですニャ。ライル様は見てないニャ♪」
「いえ、そうではなくて……っ!」
誰が着替えさせたのか、それは大した問題ではない。いや、確かに男性に肌を晒すのは貴族の恥だけれど、問題はそこでは無いのだ。そんな焦燥が伝わったのか、ロティは口角を上げて私を抱き締めて告げたのである。
「あの件であれば、見た者は箝口令を引くように仰せつかってますニャ。全てライル様のご命令ですニャ。反故にすれば全員が死罪にすると仰っていたニャ」
だから大丈夫。安心して下さいニャ……そんな言葉を付け足したロティから、優しい気持ちが伝わって来た。その優しさに包まれながら私は、ロティを抱き締め返したのであった。