002 やるべき事
ルイズレッド・カーティスという名前は、この体の持ち主の名前だという事は理解出来た。そして何が起きてこんな場所に居るのか、そしてここがカーティス家にある物置部屋だという事も理解出来た。
数日間、数週間……食事を取らずに物置部屋の中で暮らし続け、こんな陽当たりが悪い部屋に居続ければ、例え食事を取っていても不健康になるのは必然だろう。
「……お腹減った」
そして長い間、何も食べていない所為で空腹感が凄まじい。しかし、この体の主である本物のルイズレッド・カーティスの記憶を考えると、この家の者に食事をお願いするのは避けたい。空腹感を満たしたいという気持ちはあれど、彼女をゴミのように扱ったカーティス家を許したくない気持ちもある。
だからこそなのか、頼りたくないという意志がどうしても働いてしまうようだ。彼女の人格も含め、自分が彼女の意志を尊重したいという気持ちは働いているらしい。らしい、というのはまだ理解が追い着いていないという本音があるからだ。
「えぇっと……この体の元々の持ち主がルイズさんで……わたしは……あれ?」
記憶を巡るように探ったのだが、また違和感を感じざるを得なかった。何故なら、彼女についての記憶は完全に把握している。だがしかし、一番気になっている自分自身の記憶が酷く曖昧だ。朧気なんてものでも、虫食いになっている訳でもない。
ただただ抜け落ちてしまっているように、自分の記憶がごっそり抜き取られているのだ。その違和感の正体に気付いた時、深い溜息を吐いてボロボロの布が敷かれているベッドに寝転がる。
「はぁ……どうしよう、これから」
何かが遭って、自分が彼女の体に憑依した……という線で考えるべきだろう事は分かるのだが、そんな事が本当に有り得るのかという考えが浮かんでしまう。しかし、これ以上の思考労働を続けても仕方ないと理解せざるを得ない。
だとすれば、現状のやる事は二つだろう。一つは空腹感をどう満たすか、もう一つはこの部屋からどう逃げ出すかだ。彼女の気持ちを考えれば、この家に長居をするのは自分にとっても不都合でしかないだろう。
食事も出来ないし、衛生面も悪くて、地獄のような環境だ。そんな環境に居続ければ、自分も彼女のように気が滅入ってしまう可能性がある。それを考えれば、自分と彼女の事を考えればここを抜け出す事が大事だという結論に至った。
「……よし」
ベッドから起き上がり、ここが物置きだという事は記憶にある。ならば、何か使える物が無いか探すべきだろう。記憶上、彼女がこの物置部屋を探った様子はなかった。ここは彼女の記憶で確認しつつ、自分なりにどうするかを考える必要があるだろう。
そんな事を思いながら、物置部屋に使えそうな道具を探し始めたのである。