026 遭遇Ⅱ ③
何度も続く逃走劇。そんな状態にも飽き飽きしていた所だが、こうも連続で追われる事になるとは想定していなかった。魔物が居る事は想定していても、行く先々で遭遇する事になるなんて思ってなかったのは警戒が足りなかっただろう。
しかし、ただ逃げ続けるというのも面白くない。どうにかして潜り抜けなければ、現状を打破する事は困難だ。それに……今ある空腹感をどう満たすかも重要だろう。腹が減ってはなんとやら、である。
「……っ」
茂みをハードル跳びのように越えた私は、走り続けていた体力と共に磨り減っていた物があった事に気付いた。いや、気付かされたと言っても良いだろう。長時間の逃走劇だ。体力以上に、靴が消耗している事は当然だろう。
慣れない道、それも歩きにくい場所で走り続ければ靴なんてすぐに壊れてしまう。いつまでも同じ靴を履き続ければ、いずれはこうなるのも頷ける。しかし、このまま履き続けてるのは現状でメリットは存在しない。
そう思った私は、肩を竦めて走りながら靴を脱ぎ捨てた。だが、ただ捨てるのもつまらないと判断した。私は一瞬だけ立ち止まり、半脱ぎの状態で思い切り足を振るって振り返った。
『ガァッ!?』
『ゥゥ!』
追って来ている狼の魔物に向かって靴を飛ばすと、一匹の顔面に直撃したのだろう。大した牽制にもならないのは重々承知だが、それでも一瞬の牽制にはなる。魔物がもし動物と同じなのであれば、自分へ危害を加えようとする存在に対して微かな警戒心を抱くはずだ。
聡い生き物であればある程、警戒心が強く、慎重になりやすい。そして予想が的中したのか、魔物は牙を剥き出しにしつつ追う速度を抑え始める。複数で獲物を捕らえようとする習性があったとしても、一度警戒心を与えれば速度も遅くなり慎重になるようだ。
有難い状況になったが、裸足と変わらない状態では上手く走る事は出来ない。そんな状態では、逃げ切る事は正直に言って難しいだろう。
「……どうにかしないと、何か……何か良い方法は」
そう呟きながら思考を働かせながら、周囲に何か無いか見渡し続ける。だが、迂闊に足を止める事は出来ない。もし止めれば、すぐに追い着かれて魔物の餌と化してしまうからだ。そんな事を考えて居たら、別方向から私を捕えようとしていた魔物が私の前に姿を現す。
咄嗟に動きを止めてしまい、私は再び木に登ろうとしたが背後へ視線を向けると追い着かれる状況に気付いた。ここで第二の人生も終わってしまうのか、と覚悟を決めた瞬間だった。
『そこの女、目を閉じろ!』
「っ!?」