025 遭遇Ⅱ ②
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
走り回り続けているルイズの息は、完全に上がってしまっている。逃走している身である為、カーティス家から出来るだけ離れたい一心で走り続けていたツケが回って来たようだ。一先ずの避難手段として、大樹の枝を足場に上へ登った。
『ガウッ!!』
『ガルルルルルッ』
「とりあえずは休める状況を作れたけど、ここからどうしようかしら」
かなり高い訳ではないが、下の狼からすれば高い位置にルイズは居る。もし、跳んでくる場合は対処は簡単だが、登れる場合は対処法を考えなくてはならない。登れるなら登れるなりの、登れないなら登れないなりの対応という物がある。
私が今出来る事は数本の枝を魔物の頭に突き刺すか、視界を潰して逃走するかが選択肢だろう。現状、体力もまだ回復し切っていない状態では後者にするべきだろう。だが、ここで安易な手段を取っても今後が同じく上手く行く保証も無い。
「はぁ……空腹で頭が回らないわね。貴方達を空腹感を満たすしか無さそうね」
『ッ!?』
木の上から見下ろしてルイズはそう言った。その瞬間、魔物達は感じ取った。細められた目から伝わったのは殺気。それを感じ取った魔物達は、ルイズを獲物ではなく敵と認識を改めた。
「威嚇の雰囲気が変わったわね。そんなに怒っても、私はまだ降りる気は無いわよ?」
ルイズは思考を働かせつつも、魔物を含めた周囲の情報を集めていた。手元に武器が無い以上、自分が生存するにはありとあらゆる物を利用しなければならない。使える物は使うと考えていたルイズは、下に魔物の群れが出来上がり始めている事に気付くのが遅れた。
「……笑えない冗談ね、これは」
『グルルル!』
「そんなに睨まなくても、逃げる場所なんて私には無いわよ」
そう言いながら、ルイズは肩を竦めた。魔物と戦うのは初めてではないが、それでもルイズ一人で片付けられる数ではない。逃走中に倒した魔物の数は少なく、複数の人間が居た事で魔物の動きは活発では無かった。
だがしかし、今はルイズ一人しか目の前に居ない。魔物からすれば、たった一人のルイズを逃がすつもりは皆無だ。敵だと認識しつつも、貴重な食糧となる存在をみすみす逃す必要が無いからだ。
「すぅ……はぁ……ぶっつけ本番だけど、やるしか無いわね」
少量の体力が回復したルイズは、魔物を見つめてから後ろに倒れた。逆さまになって降り始めたルイズは、着地と同時に走り出したのである。
「――逃げるが勝ち!逃げ場所なんて作れば良いのよ」