024 遭遇Ⅱ ①
――〈剣〉と〈魔法〉が交錯する恋愛シミュレーションゲーム。
それがこの世界の舞台であり、私の記憶にあるこの世界の認識だ。確かゲームのタイトルは、【ノブレス・オーダー】という名前だっただろうか。そのゲームに登場する人物達には、等しく魔力という物を持っているらしい。
そしてそれは、私のこの体……ルイズレッド・カーティスも例外ではない。だがしかし、幼少の頃に魔力暴走を起こし、後遺症の「魔力欠乏症」を患って〈魔法〉が使用不可能になってしまった。その所為か、〈魔法〉を使おうとすると酷い吐き気と頭痛に襲われる。
「……笑えない冗談ね」
元々魔法なんていう物を使うような世界の住人ではないらしいから、魔法が使えないという部分に関しては割と問題は無かったりする。らしい――というのは、私自身の事も曖昧な物だと認識しているからだ。
何故ならこの肉体を彼女から渡される前、つまりは生前の記憶が非常に曖昧だからだ。何をしていたのか、どのような世界で生きていたのか、男か女か……そんな事がいまいちピンと来ないのである。
自分自身の事だというのにもかかわらず、そんな曖昧な事が有り得るのかと耳を疑うかもしれないが、事実、私の記憶は非常に曖昧で様々な記憶が混濁している状態だ。
「(まぁ、そのおかげであの場を切り抜けられたのだけど)」
彼女の実兄であるエルハルトの手によって、私は一度複数人の大人に追われている。その際、何人かを自分自身の手で退けたのだ。曖昧な記憶の中に、微かにあった戦闘技術。それが生き残った要因の一つと言っても過言ではないだろう。
ただし、私は今、目下最大の難関な問題に立ち塞がってしまっている。それは曖昧な記憶の弊害か分からないが、それとも暮らしていた世界が違ったからか、あるいはその両方か。原因は様々な事が考えられるが、この問題を解決しなければならないだろう。
ぐぅ~~~~……。
そう、空腹である。この空腹感を満たす為には、どうにかして食糧を調達しなければならないのだ。しかし、私が持っている記憶には、多少のサバイバル知識しかなく、食糧を調達する手段についての記憶が存在しなかったのだ。
「どうせなら、もっと良い記憶が欲しかったわ」
――パキッ!
「っ!」
『グルルルッ』
そんな事に思考を働かせていたからか、周囲への警戒が疎かになってしまっていた。その所為で私は、近寄って来た狼の魔物に気付くのが遅れてしまったのである。その魔物を目にした私は、溜息混じりに心の底から愚痴を吐き出す。
「はぁ……勘弁して欲しいわね、本当に」
そう呟いた私に対して、狼の魔物は牙を剥き出して襲い掛かって来たのである。