022 無策の逃亡
――やっと落ち着いた。
ルイズレッドの体を蝕む事になる「魔力欠乏症」は、魔力が暴走した後遺症となってこれからの人生を大きく左右させる。兄であるエルハルトに認識されれば、ルイズレッドの存在価値はまた過去と同じような事を繰り返すだけになってしまう。
どうにかして逃げ出すべきだろうが、現状、どうすれば良いのか考えが浮かんでいない。試しに魔力を全身に巡らせてみたけれど、やはり魔力が暴走した事で全身を巡っているはずの〈魔力回路〉が損傷しているのだろう。
ゲームでも医者にこれがバレて、奴隷商人に売られていたはずだ。裕福な生活から一変し、泥水を啜るような生活が待っている。それを想像すればする程、全身が拒絶して身震いしてしまう。
「……それだけは絶対に避けないと」
だがしかし、明日には自分の身に何も起きていない事を知らせる必要がある。そう認識させなければ、ルイズレッドが“魔法学園”に行く事は不可能になってしまう。自分の為にも、そして何よりもルイズレッドの為にも「魔力欠乏症」だって事を知られる訳にはいかない。
その為には、隠蔽する方法と協力者の存在が不可欠だ。だがしかし、このカーティス家は魔力を失ったルイズレッドを躊躇なく奴隷商人に売り渡した。そんな者達を頼る訳にはいかないし、メイドの中にも仲が良くても、何処で情報が漏れるか分からない以上……身内は危険だ。
「(もっと別の……別の協力者が欲しい)」
そんな事を考えてる間に時間が進んでいき、何も思い浮かぶ事なく朝を迎えてしまった。だが、「魔力欠乏症」が露見する訳にはいかない事を考え、置き手紙を残して部屋を出て行く事にした。
手紙の中に記したのは、暴走して迷惑を掛けてしまった事への謝罪と罪悪感を織り交ぜた物だ。これで多少は、カーティス家の人達も探しに来たとしても近場を探す可能性が高い。子供とはいえ、貴族令嬢の家出だ。騒がない訳がない。
朝を迎えたが、真夜中の森を抜けるのは流石に苦労した。魔物除けの道具を持ち合わせていない以上、記憶にある知識を駆使して森を抜けるしかない。だがしかし、無事に抜け出す事に成功した私は、森の奥で捜索し始めているであろうカーティス家の人達に頭を下げたのである。
「お世話になりました。そして……さようなら」
そして私はフードを深く被り、急ぎ足で領地を離れるのだった。しかし、私は知る由もなかった。魔力が無い事がこの世界で、どれだけ苦労するのかを。それを知るのは、案外すぐだという事も――。