001 目覚め
――ルイズレッド・カーティス。
親しい間柄の相手からは〈ルイズ〉という愛称で呼ばれている。そんな彼女が産まれたカーティス家は、代々剣術か魔法、どちらかに長けた実力を有する家柄だった。先々代は剣術に長け、先代は魔法に長け、その名に恥じぬ功績を積み重ねて来た。
その家に産まれたルイズに課せられたのは、「他の貴族よりも上であれ」「恥じる功績を残すな」という重圧だった。だが産まれて数年が経過したルイズも、その教えに従って日々努力を重ね続けて高みを目指す。
それを誇りに思っていたし、自分自身も代々続く人間として歩み続けるものだと思っていた。だがしかし、希望はすぐに絶望へと変貌してしまう出来事が起きる。
「っ……!?」
「ルイズレッド様っ!」
いつも通り、魔法の勉強と訓練をしていた時だった。魔力を枯渇寸前まで行使してしまった結果、過剰に使用された際に発生する「魔力暴走」が発生した。それによりルイズの魔力は極端に減り、暴走した事によって身体に影響を及ぼしたのである。
その結果、ルイズは「魔力欠乏症」という病を患い、〈魔法〉を使用する事が出来なくなってしまった。それを知ったカーティス家は、ルイズの努力していた事実や進もうとする意志も、全てを見限った。
それによりルイズレッド・カーティスは、ただのルイズレッドとなった。魔力は全ての人間が保有する物であり、同時に才能によって容易く優劣の決まる物でもあったのが不運だっただろう。
「ルイズレッド、お前はカーティスの血を絶やす存在だ。残念だが、お前をカーティスと名乗らせる訳にはいかない。今後、カーティスの名を出す事を禁止する。外にも出るな、これ以上の醜態を晒せば命は無い」
「そ、そんなっ!お父様っ……」
「命を取らぬだけでも有難く思え。だが、お前は既に魔力もない平民以下だ。生きながらにして死んでいるようなものだと自覚しろ」
「っ!?」
実の父から告げられた言葉。他の家族やメイド、カーティス家に関係する全ての人間から向けられた視線はルイズにとって地獄でしかなかっただろう。いつしかルイズの中で、愛すべき誇りのある家から居場所のない牢獄へと変わった。
そして貴族位を剥奪され、ルイズの身分は奴隷として扱われるようになった。食事が来るだけでも、生き続けられるだけでも、それで良いと思えてしまう程に麻痺し始めた頃である。やがて食事を取らなくなったルイズは、静かに誰にも気付かれる事なく息を引き取った。
……はずだったにもかかわらず、ルイズは目を覚ましたのである。