017 遭遇 ②
『グルルルル……』
「っ……(狼の魔物?)」
街周辺にある森には、街に魔物を近付けないようにする為の簡易結界が施されている。魔物の苦手な木を植えて、接近を阻むような簡易的物だ。それが施されてる事は知っていたけれど、実際に森へ赴いたのは今よりも小さかった時だ。それこそ、産まれて数年後の記憶でうろ覚えな記憶だ。
幼い頃は優遇されていただろうし、兄が懇切丁寧に魔物の存在や魔法の知識、戦い方を学べる環境を整えてくれていた。簡易結界も、燃やされれば解けてしまう物だ。しかし、それでも襲われていないのは、街全体にも魔物を寄せ付けない結界を張っているという話も聞いている。
だが目の前に魔物が姿を現した……という事は、考えられる事は一つだ。
「(結界の外に出たって事ね、休憩無しにこれは、ちょっとハードじゃないかしら──っ!)」
『グワウッ!』
「っ!?(危なっ!?)」
飛び掛かった魔物に対し、私は咄嗟に回避行動を取った。少しだけ遅かったら、魔物の爪に馬乗りにされていただろう。今の体力では、長期戦は得策じゃないのは明白。そう判断した私は拾っていた小枝を逆手に持ち、ナイフ戦のように構えて魔物を見据えた。
「さぁ、かかって来なさい。一瞬で逝かせてあげるわ」
手招きをしながら挑発すると魔物は理解しているのか、牙を剥き出しにして前足を前に出した。飛び掛かると分かる構えを取った魔物は、私を獲物であると同時に敵だと認識したのだろう。私は小枝を握る手を強めつつ、魔物の様子を窺いながら周囲を把握する。
獣道であるが故の足場の悪さもあり、今の体力も考えると逃げるのは困難だ。ここで仕留めなければ、私は魔物の餌に成り果てるのは理解した。
「っ!!」
力強く前足を踏み込んだ瞬間、私も距離を詰めるように前に踏み出したのである。
『バウッ!!』
「ふっ!!」
勢い良く踏み込んだと同時に、体を捻りながら魔物の懐へ飛び込んだ。すれ違いつつも、通り過ぎる前に魔物の肩には木の枝が突き刺さっている。滴る血と痛みによって興奮状態になった魔物は、本能のままに私を殺そうと飛び掛かる。
……だが、それこそが私の狙いだった。
「悪いわね。私はまだ、こんな所で死にたくないの!」
『ッッ!!?』
飛び込んで接近した魔物に土や草を投げ、目眩ましが成功した。それを見た私はその隙を狙い、先程よりも太い木の枝で魔物の脳天に突き刺した。苦しそうになりつつも、必死に抗う魔物の上に乗って全体重を掛ける。
やがて動かなくなった魔物の上で、私は倒れ込むように寝転がった。
「はぁ、はぁ……か、勝った……ふぅ」