016 遭遇 ①
どれくらい歩いただろうか。自分が今、出口のない森の中を永遠に歩き続けているのではないかと。そんな事を考えてしまう程、今の自分の足取りが重たくなってしまっている。足だけではなく、思考も精神も疲れてしまっているからだろうか。
脳内を巡っている記憶は様々な物があり、学生である記憶、会社員である記憶、軍人である記憶と色々な記憶が混濁しているようだ。まるで綺麗な水の中で、複数の色の絵の具を溶かしたようだ。その多さに頭痛がしてしまう。
「……はぁ」
疲労感によって全身が重くなる中、暗く深い森を抜けようと足を運び続けた。だけど、いつまで経っても出られる様子はない。ただただ疲労が溜まり、精神も体力も削られ続ける一方だ。助けを求めようにも人通りはなく、街に戻ろうとすれば傭兵達に捕まる可能性がある。
それに戻ったとしても、あの家が匿ってくれるとも思えない。魔力が暴走をした時点で、街の一部にもルイズレッドの情報が伝わっている可能性も否定出来ないし、街の中に居ればカーティス家に見つかる可能性が高くなるだろう。
「ぐっ……」
真夜中の森を歩き続けたおかげで、暗闇に目が慣れて来たのだろう。最初よりも見えるようになって来たのだが、月明かりが差し込んでいない場所は全く見えない。手探りで進んでいるとしても、本当に進んでいるのかどうかさえ分からないのだ。
同じ場所をグルグルと迂回し続けているのではないか。そう思えてしまってならない。しかし、戻れば傭兵に捕まってしまう。今の体力では、逃げ切れる可能性も低い。
「はぁ……足が棒になった気分だわ」
背中を預ける木の根元に座り込み、もう一周回って痛みが既に無くなっている足に視線を落とす。動かし続けた足を休めようとしたからか、我慢していた痛みと疲労が一気に押し寄せる。全身が急激に重くなり、自分の体が重力に押し潰されているのではと錯覚する程だ。
「少し、体力回復に専念した方が良いかしら……?」
足を脹脛を揉み解しながら、乱れた呼吸を整えるように深呼吸する。疲労を超えて痛みに変わり、意識した途端にドッと疲れが押し寄せる。肺も苦しいし、足も痛いし……ルイズレッド・カーティスの体で、普段使わない筋肉が痛み始めている。
剣術も嗜んでいた記憶はあるが、使わなくなった理由は一つしかないだろう。物置部屋のような場所に閉じ込められてから、正確には魔力が暴走してから……運動という運動をしてないのだ。
「(無事に森から出られたら鍛え直さないと……)――っ!?」
そんな事を考えた瞬間だった。ルイズの耳に聞こえた木の枝が折れる音に対し、ルイズは……私は落ちていた木の枝を逆手に持って身構えたのである。