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013 一人の人間

 ――ノブレス・オーダー。


 全身を巡る程の速度で記憶を埋め尽くしたその名前は、先程までの激しい頭痛と共に走っていた痛みが消え去った。腰に焼き刻まれた奴隷印の形は見えないが、確かにそこにあるという現実いたみはまだ残っている。

 だがしかし、激痛を容易く飛び越えてしまった衝撃がルイズに動揺を生んでいた。片足に抱いていた痛みでさえ、忘れてしまっているルイズは地面を微かに這いずりながら顔を上げる。森の奥に見える道は霞んでいるが、遠くにあるであろう出口を求めてしまう程に本能が叫んでいるのを理解した。


 「(私がルイズレッド・カーティス?どうして、いつ死んだの?どうやって死んだの?あの時、本物のルイズが言っていた意味は?私がこんな目に遭う筋合いは何処にもないはずなのに……)」

 『おいおい、お嬢ちゃんが逃げようとしてるぜ?』 

 『逃げたきゃ逃げりゃあ良いさ。どうせすぐに追い着くんだ、魔力も無いただのガキだからな。どっかの誰かみてぇに油断なんかしねぇよ』

 『あ?俺に喧嘩売ってんのかテメェ』

 『仲間割れは報酬を貰ってからにしろよ。その後にお前等が死のうがどうでも良い』


 奴隷商人に雇われた傭兵達は、口論しつつも這いずるルイズを嘲笑っている。仲間割れをしているが、内にある欲望に忠実なのだろう。金銭目的で集められたであろう傭兵達の声を背に受けながら、ルイズは奥歯を噛み締めて土草を握り締める。


 「(このまま連れて行かれたら、奴隷商人と仮契約させられて自由が無くなってしまう。ノブレス・オーダーに出てたルイズレッド・カーティスは、奴隷に落とした家族を恨みながら、我が身を優先に主人公を邪魔する悪役令嬢だったはず……悪役らしく振舞う中で、それなりの理由があって嫌いになれなかったキャラクターだ。でも……それが私であって良いはずが無い。私が今はルイズであるなら、そんな恨みを果たす為に他者を落とすだけのつまらない存在にはなりたくない!!!)」


 生きる……ただそれだけを考えて突き進む必要があるはずだ。そう考えたルイズは、残った体力を振り絞って再び地面を蹴って駆け出した。


 『何だ?また追いかけっこか?良いぜ、遊んでるよ!!』

 『奴隷印は刻んだからな。あとは捕まえて依頼人の要望通りに売り飛ばすだけだ。しくじるなよ』

 『あぁ?しくじる方が難しいだろが!!』


 口論をしつつも、商品であるルイズを追い掛け始める傭兵達。負傷者が居るとしても、ルイズが地面に転がっている間に治癒魔法を施していたのだろう。今もし捕まれば、記憶通りの結末が待っているのは明白だ。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……うぐっ、はぁ、はぁ、――っ!!(私はゲームに登場するキャラクターなんかじゃない!生きてる一人の人間だっ!!)」


 ルイズは張り裂けそうな胸の苦しさに耐えながら、森の中を走り続けたのである。生きる為に、本当の自分の名前も分からぬまま、ゲームに登場するキャラクターではない。ルイズレッド・カーティスという一人の人間として生き続けると誓うように。

 

 

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