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012 悪役令嬢?

 『ほらよ!!たっぷり感じな!!!』

 「っ……うあぁぁぁぁぁぁぁっ、ぐっ、うがぁ!!!」

 『くくく、くっはは……俺の腹を斬ったんだからなぁ。お互い様だよなぁ?くはははっ』

 「うぅ……ぐっ……!!」


 腰の部分だけ焼印を刻まれたルイズレッドは、涙目になりながら自分の上に乗っている男を睨んだ。不敵な笑みを浮かべているが、血を流し過ぎているからだろう。男の顔色は悪く、決して良い状態ではない事は明らかだ。

 奴隷印を刻む為に固定していた手は離れ、拘束も完全に解けている状態だ。今なら逃げられると考えたルイズレッドだったが、怪我している片足も含め、腰から全身に走る程の激痛が襲い掛かってくる。肉体だけでなく、精神にも影響が出ているのだ。

 

 「(動けっ、動けっ、わたしの体――っ!)」


 地面に這い蹲るルイズレッドを放置し、男に治癒魔法を施している大人達。全員の装いが見えた事で、ルイズレッドは誰かに雇われた傭兵である事を悟った。そんな傭兵の集団を相手に逃げるのは無謀だと理解しているが、この場を逃げなければ奴隷商人との契約が施されてしまうのは確実だ。

 奴隷印を刻まれたが、ルイズレッドはまだ誰かの奴隷になった訳じゃない。奴隷とは主人の道具であり、その用途は様々なモノがあるだろう。そして女性奴隷の主な用途は、〈性奴隷〉という扱いが非常に多い。

 稀に〈いくさ奴隷〉のように扱われたり、ただの雑用係のように扱われる事もあれば、良心的な主人に買われれば〈養子〉として扱われる事もある。しかし、ルイズレッドの脳裏は〈性奴隷〉として扱った貴族が居る事を記憶していたからだろう。

 

 「(わたしはっ……ならない。奴隷になんか……なりたくない!!)」


 そんな思いが体を動かした瞬間である。再びルイズレッドの脳裏に記憶が浮かんだ。その記憶は明るく、誰かが楽しげに言葉を交わす平和な日常の風景だった。その風景の中で動く人影が、自分へと近寄って笑みを浮かべて何かを差し出す。


 ――はい、これが前に話したゲームだよ。


 それは四角くて、薄く、片手で持てる程に軽い物だった。頭に響く相手の人影に対し、顔を覗き込んでも黒く塗り潰されている。しかし、その四角く薄い箱を見た途端に単語が浮かんだのである。


 ――そのゲームの名前はね?


 「(ノブレス・オーダー……?)」


 その名を呟いた瞬間、ルイズレッドの記憶が急速に何かで埋め尽くされた。片手で激しい頭痛に耐えながら、声を上げないように奥歯を噛み締める。やがて痛みが引いた時である。ルイズレッドは、目を見開いて懐から落ちた鏡を見て声が漏れたのである。


 「ルイズレッド・カーティス……()が、闇墜ちした悪役令嬢?」

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