010 浮かんだ記憶
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『おいおい、何武器を取られてんだよお前』
『ハッ、油断したが関係ねぇな。所詮はガキだろ?魔力も無ぇただの女のガキだ』
『傷付けるなよ?スレイザー商会に売れなくなる』
『へいへい』
目の前の男達の格好から察するに誰かが雇った傭兵だろう。剣を持ってる男から剣を奪い取ったが、転んでしまった所為で片足に痛みが走っている。動かそうとする度に走る痛みに耐えながら、剣先を男へ向けて睨み付ける。
剣先を向けられた男は、警戒しているが余裕がある態度のままだ。ルイズレッドがまだ子供であり、剣を振るう事は出来ても他者の命を奪う行為は出来ないと思っているのだろう。カーティス家で魔法を学び、剣術を学んでいたルイズレッドだが……その予想は的を射ていた。
『心配しなくても、仕事はきっちりやるさ』
『あまり傷付けるなよ、大事な商品だ。丁寧に甚振れ』
『分かってる』
「っ……来ないで!!来ると殺すわよ!」
そう言って斬り掛かって見せるルイズレッドだが、男達は必死に剣を振るう様子を嘲笑しながら回避する。怪我してしまっている片足の事も含め、振るう力やリーチの長さを考えても不利な面が多過ぎるのだろう。
力一杯に振るっても容易く避けられてしまう中、ルイズレッドは体力が消耗して肩が上下し始める。先程まで逃げ続けていた事も考えれば、大の大人から逃げ切るのは難しいだろう。意表を突いた為に奪う事が出来ただけだ。
同じ事をしようとしても、成功するとは到底思えない。しかし、油断し切っている今であれば、ルイズレッドでも剣を一度でも当てる事が出来る可能性はあるだろう。だが、ルイズレッドは他者の命を奪った事は一度もない。
剣を学んでいたとしても、模擬戦で身内と戦った事があるだけだ。魔法も実兄であるエルハルトに教わり、知識として戦い方を知っているだけに過ぎない。知識があって慢心していた訳ではないが、それでも自分は出来ると思っていたのだろう。
「はぁ、はぁ……(ルイズの知識だけじゃ、わたしもどうしようもない。人を殺すなんて、わたしには出来ないっ)」
剣を握る手の力が強くなる一方で、超えてはならない一線を超える恐怖と戦う。超えたくないと思いつつも、超えなければこの場を切り抜ける事は出来ないだろう。しかし、やはり前に進まなければならないのも事実。
そんな事を考えたルイズレッドは、再び剣先を男へ向けて全身を強張らせる。向けられた男は鼻を鳴らし、口角を上げて告げる。
『無理しない方が良いぜ?嬢ちゃん。無茶したら怪我しちゃうぞ~?』
『はっはっは、違ぇねぇ』
煽るように告げる男達は、ゲラゲラとルイズレッドの行動を笑った。しかし、ルイズレッドの思考はクリアとなっていたのである。
「(何この記憶……何か、浮かんでくる?)」
その時、ルイズレッドの全身が大きく脈を打った。